うお座
調和を創る
原初的な歌謡の役割
今週のうお座は、「言向け和す(ことむけやわす)」という表現のごとし。あるいは、政治的平定と調和のために言葉を発していくような星回り。
『古事記』には、「語問(ことと)ひし 磐根 樹根立(きねたち) 草の片葉をも語止めて」という定型的に現れる表現が登場しますが、これはそもそも岩や木の根や草や葉っぱのすべてが言葉を発していたという状況があって、それらが言葉を発することをやめた後に、「天孫降臨」が実現したということが示唆されています。
そして、そうした言語的統一の位相へと事態を差し向けることを「言向け和す」と言っている訳なのですが、これは一見すると何を言っているのかよく分からない草木に対して一方的に圧力をかけて従わせるのではなく、ある種のネゴシエーションを通じて相手を和らげていこうとする態度が根本にあり、そうした「言向け和す」ための人間の試みこそ歌や歌謡の原初の姿だったのです。
当然、そうした試みはつねに成功した訳ではなく、むしろ失敗することの方が多かったのではないでしょうか。それでも、そうした歌こそが国の基礎であり、古代において一国の主たるものはみな歌を歌うことでおのれの責任を果たしたのだと言えます。
26日未明にうお座から数えて「役割と責任」を意味する10番目のいて座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、日ごろなかなか言葉にならない思いをどれくらい言葉にして、伝えるべき相手に伝えていくことができるかどうかが問われていくことになるでしょう。
巨木と相対すの巻
例えば、夏石番矢の句集『巨石巨木学』に「東京に破顔の千年樫ありき」という句が載っています。
簡単に解釈するならば、東京のような大都市にも、古代の風を感じさせるカシの巨木があるじゃないか。思わず笑ってしまった、といった意味でしょうか。
なるほど巨木や巨石というのは、現代社会が依拠している近代科学が栄える以前の文化文明を象徴する信仰の対象であり、それが近代の科学技術の象徴であるかのような東京のコンクリートジャングルのど真ん中にもきちんと存在しているのは矛盾に他ならないですし、作者はそれを「破顔」という言葉で表現してみせることで、「言向け和(ことむけやわ)」している訳です。
巨木も巨岩も人間の手では決して作り得ず、従ってその一つ一つがはかりしれない時間スケールを秘めた自然の呪物であり、常識や今日的なあたりまえの破壊者です。
今週はそんな身近な世界にまだまだ点在している巨木や巨岩に触れていくかのつもりで、小さく狭いものになりがちだった思考の枠を思いきり取っ払っていくといいでしょう。
今週のキーワード
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