うお座
脱・ルサンチマン
ソルジェニーツィンの目配り
今週のうお座は、ソルジェニーツィンの記録文学『収容所群島』のごとし。あるいは、虚構としか思えない現実をできる限り冷静に観察していこうとするような星回り。
スターリン時代から恐らくブレジネフの頃まで、ソ連には数百の収容所があったとされ、そこでは体制に批判的であるという理由で逮捕された約2000万人もの人々が不当に過酷な労働を強制されていました。
作者もまた友人宛の私信で体制批判を行ったといういちゃもんをつけられ、8年にわたり悲惨な収容所生活を余儀なくされた訳ですが、そこでの現実離れした全体主義のおぞましさや非現実性について、作者はこれでもかというくらい客観的にルポしていきます。
普通はルポルタージュと言っても、どうしたって書き手のバイアスがかかる。けれどこの作者の場合は、「二十五人用の標準監房に百四十人」などと数字を多用したりして、あったことをできるだけあるがまま正確に描くことでバイアスを排そうとしました。何よりルサンチマンがないから透明なのです。
具体的には、「××許すまじ」といった記述がなくて、代わりに「将校だった自分ももし逮捕されなかったら、逮捕する人間と同じ冷酷さを持っていただろう」と書いています。こうしたものの見方こそ、人間における成熟や品格と言うのではないでしょうか。
そして、14日にうお座から数えて「透徹したまなざし」を意味する11番目のやぎ座にある木星・冥王星に改めて焦点があたっていく今週のあなたもまた、あえておのれを含めた人間の未熟さや偏狭さを見つめていく中で、どれだけ現実への目配せを確かなものにしていけるかが問われていくでしょう。
『収容所のプルースト』より
やはりソ連の強制収容所に連行されながらも、監視の目をくぐり抜け密かに講義され、後日その講義ノートが持ち出されまとめられたものにポーランド人チャプスキによるプルーストの『失われた時を求めて』論があります。
プルーストは革新的な形式を通じて、ひとつの思想の世界を伝えています。
それは読者の思考能力と感受性のすべてを目覚めさせながら、価値観をまるごと刷新することを求めてくるような、人生に関するひとつのビジョンなのです。
チャプスキは『失われた時を求めて』についてこう結論付けるのですが、それはどのような意味においてなのか。
『失われた時』の重要なテーマについて触れなければなりません。それは肉体の愛の問題です。プルーストはこの最も隠された秘密の側面を研究しています。どんな変態や倒錯も、美化することも卑下することもなく、分析家としての冷静さを保って調べあげるのです。
(中略)プルーストはすでにこの時点で、人間の魂の最も密やかで、多くの人が知らずにおきたいと願う領域に、その分析のランプの光を投射していたのです。
注意深い読者ならば、ここにも今のうお座にとっての大いなる指針が見出されるはずです。
今週のキーワード
魂の文学