うお座
花とたましい
真の資産とは
今週のうお座は、「茄子焼いて冷やしてたましいの話」(池田澄子)という句のごとし。あるいは、いまの自分に本当に必要なものの実質を見つめ直していくような星回り。
作者は四十を前に、たまたま目にした俳句に驚いて句作を始めた遅咲きの人。
少し苦味のある「焼き茄子」という料理は、焼くだけでなく、それをまた冷やすというところに、どこか垢抜けした面白味がありますが、それが「たましい」という語に結びつくと、途端におごそかな儀式めいたもののように感じられてくるから不思議です。
生身の肉体をもった人間が、時代という業火に焼かれつつ生き抜き、やがて寿命が尽きて冷たくなる。ひよろひょろと浮かび上がってきた「たましい」は、軍医として中国に出征し戦地で亡くなった作者の父のものか、それとも俳句の師の三橋敏雄のものか。
いずれにせよ、この場合の「たましい」とは死者のそれでしょう。そして、作中主体はそんな死者について声に出して「話」をすることで、身近に感じているのかも知れません。おそらくは、自分がそこに託していた思いがどんなものだったのか、改めて確かめるために。
6月28日に「真実を見抜く力」を司る火星がうお座から数えて「本当に必要な資産」を意味する2番目のおひつじ座へと移っていく今週のあなたもまた、自分をこれからも生かしていくためには何が必要なのかを、改めて見極めていくことがテーマとなっていきそうです。
生命力主義
岡本かの子に『花は勁し』という小説があります。生命力に溢れ、男勝りなところのあるお花の師匠を主人公とするこの小説は、どこか破格のスケールを感じさせる作者のいわば生命力主義が端的に提示されている作品と言えます。
谷崎や川端などの日本的とされる作家は、恋愛を季節に応じた自然の移り変わりとどこか通底するものとして捉えていましたが、法華経の信者であり、卓抜な宗教家でもあった岡本は彼らとはまったく異なる捉え方で恋愛を描いてみせたのです。
例えば、この主人公は彼女にお花を習いに来る若い娘たちにある種の同性愛的に好かれて人気があるのですが、実際に恋人にしているのは大人しくてはかなげで生命力の乏しい若い画家の男なのです。それも、だんだんと主人公の過剰な生命力が男の負担になって、ついには主人公の姪で、可愛がっている弟子でもあるごく普通の生命力の娘とくっついてしまいます。
「生命量の違ふものの間に起る愛は悲惨だ」と主人公が男に話す場面などは、まさに作者のこうした「生命力主義」を象徴しており、いくら主人公が悔しがっても、生命力の落差による恋の破綻がどこか宿命的で仕方のないものとして描かれているのです。
さて、今のあなたの生命力はどれほどのものでしょうか。今週は語る言葉の内容や上辺よりも、自分が発したり、相手を通して対峙している生命力をこそ意識して、過ごしていくといいでしょう。
今週のキーワード
『花は勁し』