うお座
オーバーラップ
「来し方行く末相似たり」
今週のうお座は、「深雪道来し方行く末相似たり」(中村草田男)という句のごとし。あるいは、日常の中に非日常的に没頭していくような星回り。
掲句は、しんしんと雪が降り積もっている白一色の世界を行く人の姿であり、この道を歩き続けてからもうかなりの距離になるがいまだ目的地までは遠いと感じる、そのような時の情景です。
行けども行けども同じような眺めが続き、今までやって来た道もこれから行く未知の深雪の道も、何ら変わらないもののように思えてきてしまう。
そして、これは具体的な道行きの話であると同時に、人生の来し方行く末にも大きく関わってくるでしょう。
つまり、現在の自分のその刹那が、かつて過去に寸分たがわず同じことがあったように感じられてくる、という誰にでもよくある現象が起きている訳です。
ただ、この「来し方行く末相似たり」という言い方には、過去と未来とが永遠の環としてつながり、回帰していくというニーチェ的な永劫回帰の思想が含まれているように思いますし、それが具体的な情景となって顕現するのに「深雪道」以上にふさわしい情景は他にないのかも知れません。
11日(土)にうお座から数えて「無我夢中」を意味する5番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな作者のように自分の心の奥深くにある光景に深く没入していくことができるはず。
永劫回帰の実感
実際、ニーチェは『ツァラトゥストラ』の中で
「真っ直ぐな道があると思うのは誤りだ、真理はすべて曲線を描いている、時間そのものが円環なのだ」
と述べていますが、その前段には次のような言葉が綴られています。
「この門を見るがよい。この門から後ろに向かって永遠の過去への道が走っており、また前に向かって永遠の未来への道が走っている。その長い道をいまだ終わりまで歩いた人は一人もいない。その二つの道がこの瞬間の門で顔を合わせているのだ。」
この「門」とは、現在の自分という起点であり、それはまさに掲句のように、道行きの最中にふと意識に立ち昇ってくるような仕方で感じられてくるものなのでしょう。
思想というのは、それが生活やふとした日常の文脈において再発見されるときに、はじめて生きた言葉となり私たちを活かすために燃焼し始めるのです。
今週のキーワード
永遠の現在