てんびん座
おっくうなたましい
たましいの仕事
今週のてんびん座は、『病雁(やむかり)の夜寒(よさむ)に落ちて旅寝かな』(松尾芭蕉)という句のごとし。あるいは、上昇よりも下降を検討していこうとするような星回り。
1羽の雁が仲間についてゆけず、空から落ちて湖水のくさむらで病の身を休めている。夜の雁の姿は見えないが、確かにすぐそこに息づかいが感じられる……、というのが大意でしょうか。
「雁」は天と地、北方と南方とを行き来する渡り鳥であり、いずれか1つの世界では生きられない生き物ですが、ここでは「落ちる」「病む」といった本来は雄大でダイナミックであるべき彼らの運動の停滞や衰弱が強調されています。
しかし、それは文字通り「何もしないこと」や「失敗/挫折」を意味するのではなく、河合隼雄風に言えばむしろ「たましいの仕事」をすることを意味するのではないでしょうか。
というのも、病んだり寝たりといった営みには、空間的な停滞や下降だけでなく、経済成長であれキャリアアップであれ、何かと上昇することのみをよしとする既成の枠組みや価値観を疑い、それらの内では解消されなかった想いや衝動を掘りだしたり、再び一体化していこうとするような運動性と表裏にあるからです。
同様に、10月24日にてんびん座から数えて「精神的な躍動」を意味する11番目の星座であるしし座で下弦の月(意識の危機)を迎えていく今週のあなたもまた、表面的に目の前のことをうまくこなすことよりも、大胆な停滞や衰弱への踏み込みの先に広がる可能性にこそ活路を見出していきたいところです。
「女のはないき・男のためいき」
精神科医で随筆家だった斎藤茂太が最晩年に著した本の題が『女のはないき・男のためいき』(2003)というもので、その粋な雰囲気とは裏腹に、内容としては鬱は治るというものでした。
いわく、鬱の症状で目立つのは「億劫」という現象であり、何かを決めたり行動したりしなければいけないのに、なんだかんだとグズグズしているのは、鬱の初期症状か、すでに進行しているかのどちらかだから早く対処すべき、というのが見立て。
で、そこから男には判決の自信が、女には解決の自信があれば鬱は治ると打ち出すあたりが著者の面目躍如でしょう。そこで警戒すべきは、男の溜息と女の鼻息ときたもんだ。たまの溜息や鼻息はいいけれど、それがクセになってくるのが厄介だと言うのです。
すなわち、男の溜息というのは、胃が痛いだの腰が痛いだの女房が冷たいだのと自分の身に起きた症状に折り合いをつけるべくつかれることが多いけれど、男はそれを自分の手で解決できなくても、こうすべきと自分で決めることさえできれば自信がつく。
一方、女の鼻息で困るのはストレスを病的に発散しようとするヒステリーで、女は誰が方向性を決めようとも、結局それを自分なりの方法で解決さえできれば満足するし、そこを男に解決されてしまうことには我慢ならないのだ、と。
今週のてんびん座もまた、男性と女性それぞれのおかしさや面倒くささを認識しつつも、それをどこかで楽しんでいく余裕を持ちたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
男は男なりの鬱、女は女なりの鬱があってこそ