てんびん座
時間をかける力
深く耕されていく
今週のてんびん座は、『見えざるも耕運機行き返す音』(右城暮石)という句のごとし。あるいは、機をえて特定の交わりへと改めて開かれていくような星回り。
春になると、冬のあいだは眠っていた田や畑が耕されはじめます。もちろん、昔はそれを人力ないし牛や馬の力で行っていたのが、近代化の過程で農作業が機械化して、活躍するのはもっぱら耕運機などの機械へとってかわった訳です。
この句の作者も、家のすぐ外の近いところにある田を、耕運機が行ったり来たりして耕す音を聞きながら、耕運機のとおった幅だけ深く耕されていく様子を頭の中で想像しているのでしょう。
自分の手で直接行わなくなった、地中に空気を送りこんでは息を吹き返っていくプロセスに、まず音から入っては、少しずつ体にその感覚を馴染ませていく。そうして、十分浸透したところで、外に出て実際にその作業に接していけばいい。
家の外はあかるい春の日の光で満ちていますが、そのあかるさや新鮮さは地中の深さや息苦しさ、閉鎖的なコミュニティや硬直したシステムのままならなさをよく知っている人間においてこそ、救いとなりえるはず。
4月21日にてんびん座から数えて「しがらみ」を意味する8番目のおうし座で木星と天王星の合(センセーション)を迎えていく今週は、自身もまた掲句のように耕されていく田畑になったつもりで、自身の身におとずれたつながりや文脈を受け容れていくべし。
熟した縁を受け取っていく
ユング心理学者であり臨床家であった河合隼雄は、治療過程の文脈で「なおる気のない人は、なおる気が起こるまで待ってもらう」というようなことを言っていました(『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』)。
これは神経症であれノイローゼであれ、何らかのニューロティックな症状があらわれた患者というのは、いわば「選ばれている」人であり、意識を越えた世界から一つのサイン(例えば「夢」のような)をもらっている訳ですが、そうしたサインを大事にして、かつその意味するところを究明したいと自然に思えるまでには、どうしたってある程度時間がかかるのだと。
それで治療をあきらめたり、途中でこなくなってしまう人もいるし、逆にいったん中断をはさんで、ひょいとまた再開していく人もいる。そうやって時間をかけて、症状を乗り越える力を培っていく。逆に言えば、そうして「時間をかける力」のない人には、夢分析などしても気の毒なだけだと言うんですね。
つまり、患者の方でも療法家との「合い性」や「縁」がなかったらダメで、時には最初に分析を断ってから2年か3年たってやっと「縁が熟す」ということだって珍しくないのだ、と。
その意味で、今週のてんびん座もまた、ゆっくりと出来上がっていく「思い」や「縁」というものの不思議を実感していくつもりで過ごしていくくらいでちょうどいいでしょう。
てんびん座の今週のキーワード
蛇行し、潜伏する水流のように