てんびん座
幼年期からの移行
淵に立つ
今週のてんびん座は、80年ほど前の坂口安吾のごとし。あるいは、改めて古くなってきたセルフイメージを刷新していこうとするような星回り。
「地に落ちる」という言葉は単に物理的に上からモノが落下する際に使われるだけでなく、卑しくなる、堕落する、といった意味でもよく用いられます。
例えば、太平洋戦争末期、史上最大の海戦とされたレイテ沖海戦に敗北し、いよいよ先行きが危うくなっていく頃に新聞紙上に発表された坂口安吾の『芸道地に堕つ』などは、そのいい例でしょう。
昨今の日本文化は全く蚊の落ちない蚊取線香だ。(…)職人芸人の良心などは糞喰らえ、影もとどめぬ。文化の破局、地獄である。かくては日本は、戦争に勝っても文化的には敗北せざるを得ないだろう。即ち、戦争の終ると共に欧米文化は日本に汎濫し日本文化は忽たちまち場末へ追いやられる。
坂口がこう喝破したのはもう80年近くも前のことですが、文化であれ経済であれ政治であれ、昨今の日本社会全体の停滞ぶりを踏まえても、じつに耳に痛い指摘となっています。
ただ、彼が叫んでみせた「堕落」とは、そうした愚劣さを引き受けた上で、改めて大言壮語や虚飾を捨て、人間本来の姿に徹しようというメッセージでもあったように思います。
そして1月4日に自分自身の星座であるてんびん座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、落ちて落ちて底を打つところまで落ちてみるところから年を始めてみてはいかがでしょうか。
予感と裏付け
SF作家アーサー・C・クラークが『地球幼年期の終わり』で描いてみせたように、個人の人生であれ地球の歴史であれ、事実としては「幼年期」というものはある日突然に終わってしまうものです。少なくとも、大抵の場合、その予感は十分に与えられている。ただし、その雲をつかむような予感の裏付けがないだけなのです。
ロケットに乗って宇宙へと進出していった人類だって、あらかじめ地球にそう促されていた訳で、宇宙から振り返ったユーリ・ガガーリンが「地球は青かった」とつぶやいた瞬間に、地球の幼年期は終わりを迎えたわけですが、逆に言えば、そこまでしなければ幼年期は終わらないのだということでもある。
第二次世界大戦についてだって、戦争中にすでに日本の敗北を予感していた日本人はたくさんいたはずです。その意味で、今週のてんびん座もまた、すでに予感を与えられている“終わり”に対し、何らかの裏付けを得ていくことで、きちんと終わらしていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
そして、おはよう