てんびん座
浮き輪ぷかぷか
もっと人に迷惑をかけよう
今週のてんびん座は、安藤昌益の「もれる」という概念のごとし。あるいは、すぐそばにいる他者との感情的な回路を通じて、何かが互いにもれ出しあっていくような星回り。
近年、日本人の貧しさを突きつけられる機会が何かと増えてきましたが、日本で「貧困」が取り沙汰される際には、どうしてもそれは国や自治体が対応すべき課題であるという意識がまだまだ根強いように思います。
ただその一方で、それはもはや普通の人々の暮らしの外側で起きている訳ではないということに、気付き始めている人も少なくないはず。例えば、文化人類学者の松村圭一郎は『くらしのアナキズム』の中で自身のフィールドワーク経験から次のように述べています。
歴史家の藤原辰史が『縁食論』の中で、安藤昌益の「もれる」という概念に注目している。(…)他人の問題がつねにもれでている。だから、それぞれが手にした富を独り占めすることも難しくなり、必要な人へともれだしていく。富が独占されず、他人の困難が共有されるためには、問題が個人や家庭だけに押し付けられ、閉じ込められてはいけない。
日本でよく耳にする「他人に迷惑をかけてはいけない」という言葉。エチオピアの人びとのふるまいを見ていると、その言葉が、いかに「もれ」を否定し、抑圧してきたのかがわかる。人間は他人に迷惑も、喜びも、悲しみも怒りも、いろんなものを与え、受け取って生きている。それをまず肯定することが「もれる」社会への一歩だ。
28日にてんびん座から数えて「社交」を意味する11番目のしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、日常の些細なコミュニケーションを通じて、みずからにそうした「もれ」を促してみるといいかも知れません。
「浮き」を求めて
人生は長い自問自答、「わたしが」と「わたしを」が熱中している対話のようなものと言えるかも知れません。何を見ても、誰と会っていたとしても、私たちは心の中で彼らの会話を聞き続けているし、逆に言えば彼らの会話以外のものをほとんど聞いていないのです。
でもだからこそ、私たちは人生の半ばを迎えると、彼らの対話が深い奈落の底に沈み込んでしまわぬように、そこへ割って入ってくれる「浮き」のような存在を自然と求めていくのだとも言えます。そして、それこそ安藤昌益の「もれる」であり、ニーチェならそれを「ひとりの友」と呼んだことでしょう。
今のあなたには、そんな「ひとりの友」はいるでしょうか?あるいは、相手の奴隷でもなければ専制君主でもなく、傍らにある純粋な孤独であり、透徹したまなざしであるところの者に、あなた自身はなり得ているでしょうか?
どうも今週のてんびん座は、そうした関わり方を改めて確かめたり、見極めたりしていく期間となっていきそうです。
てんびん座の今週のキーワード
自己内対話が深い奈落の底に沈み込んでしまわぬように