てんびん座
星にかくれて
社会評価を相対化する
今週のてんびん座は、『夏草に鶏一羽かくれけり』(福田把栗)という句のごとし。あるいは、相対する世界のスケールをグッと拡げていこうとするような星回り。
いつの間にか生い茂ってしまった庭の夏草のなかに、1羽の鶏が入るとすっかり見えなくなってしまったというのが句の大意。
作者は明治〜昭和期の僧侶で詩人だった人なので、鶏を放し飼いにしているような光景も当時は珍しくなかったのでしょう。実際に飼ってみると分かるのですが、鶏というのはかなり大きな鳥であり、そんな鶏がすっかり隠れて分からなくなってしまうというのですから、掲句の「夏草」の具合はかなりの高さで、かつ量も豊かなのだと分かります。
おそらく、作者自身にもどこか隠者的なところがあったのだと思いますが、あるいは、掲句の「鶏」には作者自身の理想が重ねられていたのかも知れません。例えば、現代において隠遁生活を送ろうにも、スマホや銀行通帳を持たず、家も家族も捨てて、といったことはほとんど不可能であり、むしろどうしても「捨てられない」人工物にますます取り囲まれてしまっているのが現状ではないでしょうか。
もしかしたら、掲句の作者もまたどこかでそうした鬱屈した心理を抱えていて、だからこそ、芭蕉が奥州平泉の地で「夏草や兵どもが夢の跡」と詠んだように、どうせ囲まれるのなら、人間社会を包みこむより大きな世界や、人間の営みを相対化する自然と少しでもつながりを感じ、そこにまぎれながら生きていきたいと感じていたのかも知れません。
その意味で、6月21日にてんびん座から数えて「世界」を意味する10番目のかに座に太陽が入る夏至を迎えていく今週のあなたもまた、人間の思惑が先行する“社会”との距離感をとるべく、世界そのものとの関わりに開かれていくべし。
シリウスの導き
古代ポリネシア人がシリウスを目的地への航路を決めるコンパス代わりにしていたように、道を見失った時、古来より人々は導きを求めてシリウスを仰いできました。
その意味では今週のてんびん座もまた、これから自分がたどっていくべき未知の航路をシリウスに照らして顕わにしようとしている旅人のようでもあります。
シリウスは夜空の星の中で最大の明るさを放つ恒星であり、その異様なほどの輝きは比類がありません。つまり「航路をシリウスに照らす」とは、この場合、他の人との比較や、同時代の社会が提供してくれる物差しや枠組みからではなく、あの世からこの世を見つめる時のような唯一無二のまなざしで、自分のこれからの人生の成り行きや、100年どころか300年500年といった長期的な目標について検討していこうとしているのだと言えます。
検討や意思決定の過程は合理的である必要はありません。むしろ、世界そのものに開かれるとは、往々にして「わけはわからぬが、とにかくひとつ信じてみようじゃないか」というところで判断していく他ないのです。
てんびん座の今週のキーワード
できるだけ大きく舵を切る