てんびん座
彫刻と超克
仏師が向き合っているもの
今週のてんびん座は、「行く秋ぞ命惜みて彫る仏」(山口燕青)という句のごとし。あるいは、苦しさを避けるのではなく、すっとその最中に座っていくような星回り。
作者は仏師であり、日本がまだ高度経済成長を果たす以前の昭和の時代に、昔の仏師と変わらぬ仕方で仏像を彫りあげるべく黙々とノミをふるっていました。
そうして仏像を作っているような人間が俳句を詠んでいれば、自然とその本人もまたどれだけ立派な人間であるか、生死を超越した境地に達しているかということに衆目が集まる訳ですが、掲句で秋から冬へとの移り変わっていく「行く秋」において寂寥感に感じつつ、当たり前のように「命惜しみて」と書ける作者には、どこか人間としての器量の大きさのようなものを感じます。
滑稽味とも取れますが、単なる滑稽に堕していない、ぬーっと肝の据わった禅僧のような風格があって、ここでは人間派とも呼ばれるべき作者が仏と向き合ってきた姿勢が、表面には現れずに大きな流れをなしていることがわかるはず。
やはり人間があってこその作品であり、苦しみということをなかったことにするのでも、器用に避けようとするのでもなく、作者はただポンとそのなかに座ってしまっているのだとも言えるかもしれません。
11月5日にてんびん座から数えて「財産」を意味する2番目のさそり座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自分のささやかな人生において本当の意味で価値あるものとは何か、大切にすべきものとは何かということを改めて問うてみるといいでしょう。
自分自身を刻む
ルネッサンスを代表する彫刻家ミケランジェロが人類に残してくれた遺産のひとつに、次のような言葉がある。
余分な大理石がそぎ落とされるにつれ、彫像は成長する。
(The more the marbles wastes, the more the statue grows.)
先に述べたような「苦の中に座ってしまう」ということの本質にあるのも、こうした「そぎ落とし」なのかも知れません。今週のてんびん座のあなたもまた、ひとつ彫刻家になったつもりで、本質だけを残して、ノミで余分なものはそぎ落としてみるといいでしょう。
ただし、間違っても自分をそんな技術を持たない無力な存在だなどとは思わないこと。それは甚だしい誤解であり、逆にそうやってすぐに「無力の国」を作りあげ、あなたをそこへ閉じ込めたがる誰か何かこそ、そぎ落とすべき対象の本丸なのだと念じるべし。
てんびん座の今週のキーワード
苦のさなかに座る