てんびん座
ジャンプ!
「こきこきこき」の響きあり
今週のてんびん座は、「鳥わたるこきこきこきと缶切れば」(秋元不死男)という句のごとし。あるいは、対照的なものが、それでも一致するポイントのなかにみずからを置いていくような星回り。
「鳥わたる」の鳥とは、日本で冬を過ごすために北国から渡ってくる渡り鳥のこと。この句は終戦直後の昭和二十一年に詠まれたもので、当時缶詰はとても貴重で得難い食べ物でした。
この句も、たまたま手に入れることのできた缶詰をひとりで開けていると、北から渡り鳥が空を横切っていくのが見えたところを詠んだわけで、「こきこきこき」は缶切で缶のふちを切っていく音であると同時に、渡り鳥のなき声のようにも聞こえます。
天上と地上、集団と孤、遠く旅するものと一つところに留まるものと、それぞれ対照的ではありますが、しかしどちらも生き難いこの世をひたすら生きるもの、生きねばならぬ者同士。そのささやかではありますが、かけがえのない呼応の喜びが、この「こきこきこき」という擬音にこめられているのだと言えます。
10月6日に自分自身の星座であるてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、そうしたささやかな喜びをこそ大切にしていきたいところです。
「生産性」という概念に対するラディカルな抵抗
生まれてきた以上は世の中に必要とされている人間だ
今、いのちがある限り、君には必ず使命がある
使命を見出すためにも、自分の人生を力強く歩んでいかないといけない
これは現代社会では見慣れ切ったメッセージであり、「使命」などと大仰な言葉が使われているのも、要は「責務」という言葉の言い換えでしょう。
すなわち「生産性のない人間には生きる価値はない」というどこかの誰かの発言の裏返しでもあり、なんだかんだと言えど、今日の日本社会で広く受け入れられている生産性信仰に基づくじつにありふれた思想の表明と言えます。ああ、素晴らしきかな‟不断の努力”とそれを疑うことなく価値づける労働倫理!
しかし、ほんらい生はどこまでも無根拠であり、無底。つまり、あらゆる意味付けや解釈を無効化し、価値という尺度を拒絶する地獄の底の奇蹟であり、どんな負債からも自由な‟語りえない”何かであるはず。
今週のてんびん座もまた、自分が投げ込まれ硬直しつつある既存の文脈に抵抗し、そこから飛び出していくためのきっかけをつかんでいくことがテーマとなっていくでしょう。
てんびん座今週のキーワード
水面の上をはねる魚