てんびん座
目線をすこし遠くにやろう
言葉の重みを取り戻す
今週のてんびん座は、「コットンのねむりの中でおさなごがやさしく握る虹の先っぽ」(天道なお)という歌のごとし。あるいは、言葉に実感が追いついていくような星回り。
「おさなご」の一語にしみじみとした実感が込められている一首。もちろん「おさなご」という言葉そのものは誰もが知っている言葉ですが、実際のところ、大方の人はそのしみじみとした実感を記憶の彼方に押し流してしまい、みずからの日常には実在していないのではないでしょうか。
「コットンのねむり」のような、柔らかで触れれば壊れてしまいそうなほどに繊細な存在が、この世に生れてくる以前に見ていた夢の「先っぽ」をつかまえてそこに横たわっている。その、はじめて子をもった時のような、記念碑的な瞬間においてやっと「おさなご」という言葉はその本来の言霊をありありと宿してみせるのです。
どこか西行法師の「何事のおはしますをば知らねどもかたじけなさに涙こぼるる」という歌を思い出させますが、今の社会ではこうした一見弱くはかない存在は無視されたり、軽視されがちな傾向にあるようにも思います。
9月7日にてんびん座から数えて「記憶の想起」を意味する12番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、いつの間にか忘れていた大事な記憶や実感を取り戻していくことができるかも知れません。
手前の現実を超えて
今も昔も、ひとつの言葉や言葉同士の連なりに心動かされる時というのは、さながら秋から冬にかけての星空のように、ただクッキリとした輪郭をもった星座図像としての星々を認識している訳ではなく、大抵おのおのの星の連なりや関わりが星のまたたきと共に揺らめいているその様を眺めている時なのだとも言えるかも知れません。
そうして、意識と無意識の境界線で心を遊ばせることができた時、人は目先の対象を超えて、境界線の向こう側へ目を向けていくようになって、自然といい表情になるのです。
いまの自分と、遠い過去の誰かとが、星(言葉)を通じてつながっていく。それは夢か幻か、それとも現実と地続きの忘れかけていた記憶の光景か。
今週のてんびん座のあなたもまた、ただ単に高い酒を飲んで目先の現実のことで酔うよりも、飲む酒は安くても夢みたいなことばかり語っていた頃の自分に立ちかえっていくつもりで、現実の境界線をたゆたっていきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
いい表情を取り戻すこと