てんびん座
神話的な歩み
中年男性を圧倒したもの
今週のてんびん座は、「おそるべき君等の乳房夏来る」(西東三鬼)という句のごとし。あるいは、あごを上げ胸をはって堂々と歩みたい道を歩いていくような星回り。
昭和23年(1946)、戦争が終わってすぐに詠まれた句。おそらく、衣替えが終わった若い女性の姿に、敗戦によって打ちひしがれている世の男性たちを尻目に、たくましく自身の「生活」を生きんとした女性たちの生命力を重ね見て、圧倒されていたのだと思います。
作者は女性関係が派手なことで有名な人物でしたが、同時によく水商売の身をやつした女性たちを保護したり、親身になって相談に乗っていたそうですから、なおさら女性のたくましさを実際に見聞きすることが多かったのでしょう。
そんな作者が「おそるべき」と表現した女性たちとは、もはや防空頭巾にもんぺ姿で耐え忍ぶそれでも、割烹着姿で台所に立つ慎ましいそれでもなく、白いブラウスを身にまとい、街を颯爽と闊歩して働きに出る若い女性たちでした。
社会が根底からゆらぎ、人心が惑いに惑うときというのは、いつだってあたまで生きがちな男性よりも、からだに軸足を置いて生きている女性の方が強いものなのかも知れません。
17日に自分自身の星座であるてんびん座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、言語化がうまいだけの男を圧倒するくらいのエネルギーが、身の内から湧き上がってくるのを感じていくことができるはず。
無防備ゆえに最強
古代ギリシャ社会において、狂気と復活の神であるディオニュソスは、死への衝動を含み込んだ生きる意志のシンボルとして、周囲を凄まじく巻き込む強烈な霊威で知られていました。
では、そのパワーの秘密はどこにあったのかというと、じつは四股や衣服にとどまらず皮膚さえも剥ぎ取られながらも存在し続け、生きる意志を失わない「トルソー的身体」にあったのです。
ボードレールの「バッカスの杖」という詩には、「曲線と螺旋とが沈黙の愛情を注ぎながら直線に言い寄り、その廻りで踊りを踊っている」というの一節が出てきますが、この酒の神バッカスこそギリシャ神話におけるディオニュソスでした。
そして、そのディオニュソスを祀る秘祭で用いられる蔓を巻いた松明(テュルソス)こそ、頭や手足のない胴体だけの彫像(「トルソー」)の語源でもあった訳です。
今週のてんびん座もまた、三鬼が圧倒された女たちや、ディオニソスのように、一切の虚飾やポーズをそぎ落としていくことで、自身の奥底に眠っている力をこれでもかと引き出していきたいところです。
てんびん座の今週のキーワード
ただ「蔓を巻いた松明」であれ