てんびん座
トランクから猫
開かれた木陰
今週のてんびん座は、「緑陰やトランク開けば市となる」(望月とし江)という句のごとし。あるいは、“たましいの風通し”ということを気遣っていくような星回り。
緑陰とトランクの取り合わせの妙が光る一句。「緑陰(りょくいん)」は夏の季語で、夏の日差しのもとよく繁った樹の陰のこと。そこで読書をしたり、昼寝をしたり、敷物を広げてちょっとした食事を誰かと共にするのも楽しい。
掲句の「緑陰」も、森や林の奥まったところにある静かな木陰というより、街角や公園で喧噪の隣りにあるような、ちょっとした木陰なのでしょう。直接書かれてはいませんが、「涼しさ」という感覚はそういう場所でこそかえって際立つものです。
そして、そこにひとつのトランクが開かれる。それによって緑陰はプライベートな領域として閉じられるのではなく、逆に市(マーケット)として道行く人へと開かれ、そこに南風が吹き抜けていく。
これはある種の逆説表現なのではないでしょうか。つまり、高温多湿や強烈な日差しなど夏の自然がもたらす脅威に対し、おのれを閉じて頑なに守とうとするのではなく、柔軟に開いて他者から観察ないし意見されやすい状況を作っていくことで、むしろ救われていく。そういうことを感覚的に詠っているようにも感じます。
20日におとめ座から数えて「開かれた場所」を意味する11番目の星座であるしし座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、心の奥深くでほこりをかぶったトランクを思いがけず開いていくことになるかも知れません。
風が吹き抜けていく
占星術では「風」と言えば、他者とのコミュニケーションや世間からの干渉など、さまざまなレベルでの関わりあいを連想しますが、今週のてんびん座にはそれに加えてさらに未来へと吹き抜けていくような潮流や、可能性の気配を感じさせるところがあります。
蛇が衣を脱ぐように、私たちも人と人との間をすり抜けながら、さまざまな人たちとの関わりを通じて、自分の未来を仰いでいく。
いまはただ、そうして変わりゆく身のまわりの文脈がどこへ繋がっていくのか、またどんな予定調和的な帰結が待ち受けていそうか、といったことを余計な感傷をまじえず、ただなんとなく見つめていくくらいのつもりで丁度いいでしょう。
ちょうど、猫という生き物が次に何をするか予測不可能で、人間側の都合などお構いなしに障子を破り、どんなに気を付けていても戸外へと逃げ出してしまうことがあるように。
今週のキーワード
猫は流動体である