てんびん座
だんだん頭が消えていく
心中に火をともす
今週のてんびん座は、「土器に星まつる火をともしけり」(高橋淡路女)という句のごとし。あるいは、心の奥底に沈んだまま思いや衝動をすくい上げていこうとするような星回り。
「土器(かわらけ)」とはうわぐすりをかけずに焼いた、素焼きの陶器のこと。「星まつる」は“星の恋を祭る”ということで、牽牛と織姫の七夕伝説に由来するもの。もちろん本来は夏の季語ですが、星の恋の永続性への憧憬には季節は関係ないはず。
それよりも1年に1度の逢瀬を、それしか遭えないと哀れとする見方もあれば、逆にそれをうらやむ人もいるのが地上の現実の姿でしょう。特に結婚生活わずか2年で夫を失い、夫なき後に生まれた子供を女で一つで育ててきた作者の場合は、それは単なる想像とは違う現実の重みが加わってきます。
掲句もまた、句としては気品と正しさが感じられますが、やはり同時に底知れない情念のようなものの気配がうごめいているのも無視できません。
「ともしけり」という句の結びには、地上のそれとはまた勝手が異なる天上の恋の作法に則って、厳かに儀式次第を進めていこうとしているようなある種の凄味さえ感じられます。
13日にてんびん座から数えて「腹の底」を意味する4番目のやぎ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、頭で考える以前ところで抱き続け燃やし続けている思いや衝動を少しでも昇華していくことが求められていくでしょう。
「非思量」ということ
禅の世界には「非思量」という用語があって、これは例えば中国・唐代の禅師・薬山惟儼(やくさんいげん)による次のような問答において記録されています。
ある時、薬山が深い瞑想状態で坐っていると、ひとりの僧がやってきて彼に尋ねた、「岩のようにじっと坐っていて、あなたは何を考えているのですか?」
師は答えた、「絶対的に思考できないものを考えている。」
僧「絶対的に思考できないものをどうして思考できるというのですか?」
師「非思考的思考、非思量によってだ!」
通常、人の意識というのはXであれ〇〇であれ、何かしらの対象を志向する在り方をしているものですが、先の問答にもあるように座禅の実践の第一の目的というのは意識の非志向的次元を探求することであり、その次元では人は現世利益であれモテであれ、何かを「志向する」ことのない純粋な活動体となりえる訳です。
だからと言って、もちろんここで座禅を勧めている訳ではありませんが、今週のてんびん座は、どこかでこうした「頭が消えていく感覚」へ接近していきやすいタイミングと言えるでしょう。
今週のキーワード
意識を捨てて遊ぶ