てんびん座
秘密を秘密として扱うこと
ある女性の場合
今週のてんびん座は、トマス・ハーディの小説『テス』のごとし。あるいは、自身の抱えている秘密を丁寧かつ慎重に扱っていこうとするような星回り。
はじめにことわっておけば、この小説の主人公で過酷な運命を余儀なくされた純真な女性テスは、19世紀の家父長制度の犠牲者ですが、彼女の起こした感情的トラブルの非は別のところにあるように思います。
テスが母親の忠告通り、秘密を抱えたまま生きていれば、彼女の結婚は破綻することもなく、ハッピーエンドに終わっていたかも知れません。テスは最終的にみずからの手で殺すことになるアレックに汚された過去について、結婚式の夜に夫のクレアに打ち明けましたが、クレアは事実に耐えきれず、単身でブラジルに農業移民として旅立ってしまいました(最終的にテスの元に帰ってくるが、テスはその時すでに再開したアレックに屈服して同居していた)。
英語では「秘密をもらす」ことは「豆をこぼす(spill the beans)」と言いますが、これは豆を密封したまま放置するとガスが発生し、腸内にたまれば消化不良をおこしたり、最悪の場合、暴発することに由来しており、秘密を封じこめたときにも似たことが起きることを示唆しています。
秘密には本人が思っている以上に罪悪感がつきまとい、本人もそれが嫌で早々に打ち明けたがるものですが、テスの場合なら、いきなり夫に直接打ち明けるのではなく、適当な仲介人になってくれる信頼できる人物にまず打ち明けて、慎重に状況を見定めた上で、然るべきタイミングで間接的に公表するか、直接打ち明ける手伝いをしてもらってもよかったはずです。
8日にてんびん座から数えて「隠れた敵」を意味する12番目のおとめ座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、秘密を暴露したくなった時は、それによって得られる一時的な満足と、自分とまわりが長期的にこうむる結果とを天秤にかけて検討してみるといいでしょう。
こころの押入れを整理していく
秘密というのは、普段はたいてい意識の奥深く、記憶の彼方に刻み込まれます。かつて、記憶というのは生き残りのための重要な情報を保存しておくためのものだったのでしょうけれど、現代の人間においては、ほとんど思い出したくない過去の苦しみの押入れのようになっているように思います。
ただ、あんまりぎゅうぎゅうまで押入れが詰まっていると、新しい記憶が入っていかなくなりますから、それが感覚に影響して何を食べても舌が美味しさを感じなくなくなったり、世界から匂いが消えていたり、また感情的にこらえがきかなくなったりといったことが起きてくる訳です。
あるいは、日々どうしたら時間をつぶせるか途方に暮れているような場合、人は今にも雪崩を起こしそうな押入れに、既に生活圏だけでなく心の余裕そのものをつぶされてしまっているのかも知れません。
今週のてんびん座は、記憶が乱雑につっこんである押入れの整理に手を出したり、このところ詰めこみがちだったスケジュールに余白を作っていくことが一つの課題となっているのだと言えます。
今週のキーワード
空間的・時間的な余白をもうけることの大切さ