てんびん座
口や手だけでなく足を動かすこと
遊歩者の矜持
今週のてんびん座は、ヴァルター・ベンヤミンの述べた「遊歩者」のごとし。あるいは、惰性ではなくまったき新鮮さをもっていつもの道を歩いていくような星回り。
19世紀末に生まれ、近代化の過程でどんどん複雑化していく都市に魅了され、分析の対象にしていったベンヤミンは、「遊歩しながら街について考えることは、“舗道の植物採集”みたいなもの」と述べ、あるいは「通行人や屋根やキオスクのバーは、足元で折れる森の小枝のように……さまよい人に語りかけるはずだ」と書きました。
こうした「遊歩」は、通勤ラッシュに食らいつき、もっぱら職場と自宅の往復に勤しんでいる現代日本の都会人からはずいぶん遠いものになってしまいましたが、今この状況によってそうした日常がいったん途切れたことで、多くの人々は再び「遊歩」を取り戻すきっかけを手にし始めているのではないでしょうか。
「生産過程が(機械によって)加速されるとともに、そこでの退屈が生まれてくる。遊歩者は悠然とした態度を誇示することで、この生産過程に抗議する。」
そう、ベンヤミンにおける「遊歩」とは、行政や新自由主義経済への黙認なのではなく、むしろそうした黙認に伴われる憂鬱な生のテンポへの抗議表明なのであり、そうであるからこそ「採集」は遊歩者にとって生き生きとしたものである訳です。
31日にてんびん座から数えて「しがらみ」を意味する8番目のおうし座で、「鋭角な切り返し」の星である天王星とともに満月を迎えていく今週のあなたにおいても、これまでの袋小路から脱け出していくきっかけをつかんでいくことがテーマとなっていくはずです。
「ハビトゥス」としての遊歩
一言でいえば「習慣」のこと。もともと「habere(持つ)」というラテン語の動詞の過去分詞なのですが、「se habere(おのれを持する)」という再帰動詞の過去分詞でもあり、つまり「ハビトゥス」は「持たれたもの=所有物」であると同時に、おのれを或る状態に保ち続け、その経験が何度も反復されていくうちに自然に近い状態になって「能力」として定着し、人格にまで染み込んだものをも表わす訳です。
人生を歩んでいると、人はどうしても時に世界に反発したりすねてしまうことがありますが、本当はそればかりでなく、自分自身とのあいだでも仲たがいばかりしています。だから、人生を歩きやすくしていくためには、自分自身と仲直りしていく必要がある。そして、その秘訣はやはり「ハビトゥス」にあるのだと思います。
今週は何か一つでも、これまでにあなたが自覚できた自分の悪癖や習慣を逆転させるきっかけをつかんでいけるとよいのですが。
今週のキーワード
いつも新鮮な同じ散歩道