てんびん座
おのれはどこに立っているか
別れと務め
今週のてんびん座は、「秋かぜのうごかしてゆく案山子哉」(与謝蕪村)という句のごとし。あるいは、動かしたくても動かすことのできない現実を受け入れていくような星回り。
1760年、作者が45歳の秋に作られた一句。実景を詠んだものと思いがちですが、そうではありません。
その頃、旅装束姿の古い友人がふらりと家を訪ねてきて、いっしょに九州へ旅に出ないかと作者を誘ったのだそうです。行きたいのはやまやまだし、さぞや楽しいだろうけれど、先立って還俗し、妻をむかえた身であるから、今すぐに京を離れる訳にはいかない。
結局、作者は旅には出ませんでしたが、代わりにこの句を詠んだのだそうです。つまり、「秋かぜ」とは友人のことであり、一歩も動けないでいる「案山子」が作者自身のこと。その後、その友人は連れもなく、独りで九州への旅を終えたのち、ほどなくこの世を去ったとされています。
作者はその後も生き続け、多くの仕事を為しましたから、この句を詠んだ時の判断は仕方がなかったのでしょう。
10日にてんびん座から数えて「やるべきこと」を意味する10番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、投げ出す訳にはいかない自分の果たすべき務めということについて改めて判断や認識を迫られていくことになりそうです。
ヒイさまの視点
映画『もののけ姫』の冒頭で、村のシャーマンである老女ヒイさまは、「誰にも運命はかえられない。だが、ただ待つか、みずからおもむくかは決められる」と断った上で、「西の土地でなにか不吉なことがおこっているのだよ。その地におもむき、曇りない眼で物事を見定めるなら、あるいはその呪いを断つ道が見つかるかもしれぬ」とアシタカに申し渡し、そこから彼をめぐる一大叙事詩は始まっていきました。
言ってみれば今週はこうしたヒイさまの視点、すなわち自分の置かれた状況(特に人間関係)に対する冷静でバランスのとれた全体像をいかにして得られるかということが問われていくタイミングなのだと言えるでしょう。
そして、自分がどこかの時点で既に下していた判断が間違っていなかったのだという確信を得ていくのです。さながら、案山子が自分の畑で、秋風が去った後もその感触を確かめるかのように。
今週のキーワード
運命が立ちあがっていく感覚