てんびん座
負けるが勝ちよ
簡単にリセットしないこと
今週のてんびん座は、古人が歌にして詠んだ「いぶせ」のごとし。あるいは、豊かな悲しみに浸っていくような星回り。
人生には憂鬱なことがいくらだってあるもので、単に気分が悪くなることなんて数え出せばきりがないほどありきたりな出来事です。日本では、古代このかた歌人たちは気分が晴れないこと、気づまりなこと、なんとなく悲しいことを「いぶせ」(憂鬱)と名付けて歌に詠んだばかりか、源氏物語の桐壺帝の憂鬱を「なほいぶせさを限りなくのたはせつるを云々」とあらわしたりもしてきました。
ところが、20世紀の精神分析学者たちがそうした「特別な心情」を正当化できない悲嘆、すなわち「うつ(メランコリー)」として特徴づけ、ひとつの精神障害として分類ないし治療の対象として規定していく中で、次第にその異常性ばかりが強調されるようになったのでした。
とはいえ、では「いぶせ」もまた薬を投与して治せばよかったのかと言えば、そういうものではないでしょう。もしそんなインスタントな処方箋で先に挙げたような気分変調の話をすますなら、古今東西の文学の大半は精神障害の単なる記録か、頭のおかしい者たちのでっちあげた妄想だったということになってしまいます。
つまり、精神分析は深い悲しみを精神疾患にしてしまうことで、人々が正当に悲しみに浸る権利やその豊かさを奪ったのではないかという問題提起もできるはず。
17日にてんびん座から数えて「盲点となっている感情」を意味する12番目のおとめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、いつの間にか覆われ、失ってしまっていた深い感情を取り戻していけるかどうかが問われていくことになりそうです。
惚れた者負け
恋愛を筆頭に、人と関わるということは本質的に超絶めんどくさいことです。が、めんどうはめんどうなりに、楽しさがあって、美しさもあって、でもやっぱり汚さもあったりするんですよね。そして、そういうあれやこれやを経て、誰か何かを最終的に引き受けたり引き受けなかったりする。
自分が好きだからって、相手が自分のことを好きかは分からないし、仮に好きになってもらえたとしても、そのタイミングでまだ自分も相手が好きかどうかは分からない。そもそも、相手に自分がしてあげられることなんて、本当はこれっぽっちもないかも知れない。自分の方が、よっぽどたくさんのものをもらってしまう。だから結局、恋愛ってそういう「片思い」をみずから引き受けていくことなんだろうなと思います。
人間、相手が何を感じて何を考えどう幸せなのかなんて、最後までわからない。だから、どこかで腹をくくって「それでも好きだから」と言うしかないんでしょう。
うまくいけば今週は、あなたが心から「負けました」と思えるものと出会えたことを、余計なものを交えずに、ただただ純粋に感じていくことができるかも知れません。
今週のキーワード
脱・悲しみの喪失状態