てんびん座
あの世とこの世の風通し
軽みということ
今週のてんびん座は、「風生と死の話して涼しさよ」(高浜虚子)という句のごとし。あるいは、重々しい時こそ軽やかになっていこうとするような星回り。
掲句は作者が83歳の時に詠まれたもので、当時72歳で信頼の厚かった弟子の富安風生(とみやすふうせい)と死の話をしていたのだと言います。
ただし死の話と言っても、ここには深刻さはあまり感じられません。「風生」の「生」から「死」に転じるのは明らかに字面上の遊びが含まれていますし、「死」という言葉の響きのつめたさは、「涼しさ」という夏の季語へと回収され、ひとつの歌になっていきます。
そう考えると、なおさら二人の老俳人の話はむしろおめでたいものでもあったのではないでしょうか。
そもそも俳句の「俳」というのは、おどけや滑稽の意味で、つまり深刻な事柄をただ深刻に詠むだけは俳句にあらず。どこかにユーモアを湛えたものとして俳句はあった訳です。
掲句もまた、死を前にしてただ事実を述べ、あんまり高尚な話だったり湿っぽい感情を交えないことが、かえってユーモラスでもあります。
6月21日にてんびん座から数えて「果たすべき役割と責任」を意味する10番目のかに座の初めで、日食と新月を迎えていく今のあなたもまた、どうか遊び心を忘れずに、歌う小鳥のようなおめでたさを持ち込んでいってほしいところ。
師は必ず偽装する
師弟関係というと「弟子が準備できたとき、師は現れる」という有名な言葉がありますが、占星術家ディーン・ルディアはその続きとして「師は必ず偽装する」という言葉を付け加えるべきだと述べています。
これは師のことを言っていると同時に、やはり果たすべき使命のことを言っている言葉でもあるのです。例えば、「なぜそれをやらなければいけないの?」と聞かれてスラスラと答えられるような「使命」というのは、本当の「使命」かどうか怪しいものだといこと。
逆に、その場ではうまいことが言えず、おろおろするばかりであったとしても、後になって突然パッと何かがわかったり、腑に落ちることもあるのです。そう考えると、掲句における「涼しさ」の響きもまた違って感じられてくるはず。
心許なさをごまかさず、自らの内なる対話に意識を向け、そこにスーッと吹いてくる風の手触りを感じてみること。今週はどうかそんなことを心掛けてみてください。
今週のキーワード
ユーモアは風とともにどこかから吹いてくる