てんびん座
神話のかけらと無用物
役に立ったらそこでおしまい
今週のてんびん座は、「無用の用」という言葉のごとし。すなわち、役に立たないと思われているものが、実際は大きな役割を果たしていることに思い至っていくような星回り。
中国古典の『荘子』には面白いエピソードが数多く出てきますが、そのうちの一つに、幹がこぶだらけで枝の曲がりくねった大木があって、これを何の役にも立たないと言う人に、荘子が次のように語ったという話があります。
「大木があって用いようがないとご心配のようですが、それを何物も存在しない広々とした空漠の野原に植えて、そのまわりでかって気ままに休息し、その樹陰でのびやかに腹ばって眠るということを、どうしてなさらないのです」(金谷治訳注)
役に立つかどうかを確かめ、有用性を求めるのは、たしかに一つの知性のあり方ですが、一方で荘子は「人々はみな有用なものが役に立つことはわかっていても、無用なものが役に立つことを知らない」と言います。
これは「有用性」とか「役に立つ」か否かに基づく知というものが、どうしても偏ったものになってしまいがちで、時代や社会や文脈に応じて変化していくものだということに警鐘を鳴らしている訳で、「無用の用」という言葉もここから生まれたのだそう。
5月30日にてんびん座から数えて「自己相対化の極致」を意味する12番目のおとめ座で、上弦の月(動き出し)を迎えていく今週のあなたもまた、短期的な視点や目先の利益を追うだけの価値観からできるだけ距離を取っていくことがテーマとなってくるはず。いっそのこと、カカシのようにただボーっと突っ立っていたり、猫のように暇な時間をもてあましていきたいところです。
逸脱のバイブレーション
例えば、「猫のしっぽ」のような存在の切れっぱし。あるいは、錆びた看板、使いかけのノート、壊れた機械の部品、音が一部飛んでるオルゴール、割れた食器、百科事典の切れはし、レンズのない天体望遠鏡、舞い上がるビニール袋、きちんとした文章になっていないけれどどこか引っかかる単語など。
それ自体では中途半端な、不完全で、些細な、不具の断片。けれど、どこかそこから物語が始まっていきそうな、全体性を欠いた部分。いや、完成された全体性よりもずっとキラキラしている魅力的な神話のかけら。
「そんなもの、いつまで持ってるの、捨ててきなさい」
「嫌だ!」
予定調和的にストーリーが完成してしまうことを断固拒否するような部分や断片には、こちらの論理を逸脱させるバイブレーションがあります。「無用の用」というのは、そうしたバイブレーションに身を任せてみると言うことでもあるのかもしれません。
今週のキーワード
役に立たないものほど神話的である