てんびん座
目的と幸福
動物の幸せと理性の幸せ
今週のてんびん座は、トルストイの『人生論』のごとし。あるいは、幸福の定義を自分なりに腹落ちさせていくような星回り。
「人は誰しも自分の利益のため、幸福のためだけに生活している」という考えは、本書に繰り返し出てきますが、案外この否定しようのない事実を目を背けることなく直視できている人は少ないのではないでしょうか。
トルストイはさらに、人間が求める幸福には2つあると言います。ひとつは、自分だけの動物的生存に関わる幸福で、彼はそれを「動物の幸せ」と呼びます。対して、人はまったく別の幸福、すなわち「理性の幸せ」も求めており、次のように述べています。
「人間の真の生活は、動物的な自我をおさえようとする理性の意識として、あらわれる。したがって、動物的な自我の求める幸福が否定されるとき、はじめて、真の生活が始まるのである。」
では、どんな時に動物の幸せは否定されるのか。トルストイが夢見た理性の到達点はこうである。
「すべての人が他人の幸福のために生き、自分自身よりもいっそう他人を愛すような状態である。(中略)自分よりも他人を愛する。自分の幸せでなく、他人の幸せを求める」
すなわち、人生において、自分だけの幸福を願うことは不可能なのだと知った時、幸福は訪れるのだと結論付けるのです。
25日(土)にてんびん座から数えて「自分から与える愛」を意味する5番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どうしたら「真の生活」を始められるか、そのとっかかりを掴んでいくことがテーマとなっていくでしょう。
トルストイと共に
これらは夢見がちな人物によって理想的な絵空事として書かれたのではありませんでした。
トルストイは『人生論』を59歳で書きましたが、まだ最後の大作である『復活』の執筆を残していたという意味で“晩年”とは言えず、さらに執筆当時も長年の家族と対立がもとで家出を試みていたり、湧き上がる懊悩に毎日もがき苦しんでいたのです。
本書はいわばそんな自分自身を多くの言葉を費やして納得させることを第一の目的として書かれました。
みずからの人生を掌握できず、ただ波に流されるように生きているに過ぎない自分自身をどうしたら「真の生活」へと引き戻していけるかという目的を愚直に追い続けた、 作家の悪戦苦闘の軌跡に他なりませんでした。
今のあなたもまた、あくまで悪戦苦闘中の生々しい人間として、彼とともに歩んでいきたいところです。
今週のキーワード
他人の幸せを願う