てんびん座
底抜けと人でなし
硬直した自我が割れる時
今週のてんびん座は、「文明の果の大笑い」のごとし。あるいは、幸も不幸もなく、どこまでも冷たく、それでいて明るいユーモアをもって目の前の現実を受け入れていくような星回り。
冒頭の言葉は、太宰治の『ヴィヨンの妻』に登場する自称詩人のクズ夫「大谷」の詩の中に出てくるものなので、この小説の語り手は他ならぬ彼の奥さん。
一切、お金を稼いでこない上に、酒は飲むわ遊び人だわでどうしようもない旦那と、体の弱いふたりの子どもの世話をしつつなんとかしてく日常を淡々と語っていくのですが、この奥さんが凄いのはそんな旦那に対し、いっさい悲壮感や嫌悪感を出すことがないのです。
例えば、夫が妙に優しくなった後に失踪してしまい、あろうことか料亭でお金を盗んで泥棒騒ぎを起こした際も、次のような調子でした。
「またもや、わけのわからぬ可笑しさがこみ上げてきまして、私は声を挙げて笑ってしまいました。おかみさんも、顔を赤くして少し笑いました。あたしは笑いがなかなかとまらず、ご亭主に悪いと思いましたが、なんだか奇妙に可笑しくて、いつまでも笑い続けて涙が出て、夫の詩の中にある「文明の果の大笑い」というのは、こんな気持ちの事を言っているのかしらと、ふと考えました。」
いやいや、笑ってる場合じゃないでしょと普通なら突っ込むところですが、こうした超越的笑いは、今のあなたにもどこか通じてくるところがあるのではないかと思います。
26日(木)にてんびん座から数えて「心理的基盤」を意味する4番目のやぎ座で日食新月を迎えていく今週は、そうした「底が抜ける」ような体験をしていきやすいタイミングと言えるでしょう。
恐るべき寛容
「恥の多い人生を送ってきました」(『人間失格』)
をはじめとして、太宰治という小説家は、一にも二にも、記憶に残る名文句を作品ごとに連発してしまう天才的なコピーライターでもありました。
そして、この小説でも語り手である妻を、さんざんな目に合わせておいた上で、こういわせるのです。
「人非人(にんぴにん)でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」
妻にこう言われた時の、夫の顔が想像できるでしょうか。今週のあなたもまた、願わくばこう言い切れるくらいの肝の座り様でありたいものです。
今週のキーワード
幸も不幸もないんです