しし座
浮いてこい
根源的かなしさへの感受性
今週のしし座は、「かなしみの芯とり出して浮いてこい」(岡田史乃)という句のごとし。あるいは、乗り越えられるはずもなさそうな高いハードルを越えていくような星回り。
「浮いてこい」という作者の声援がどこに向けられたものなのか、その受けとり方によって印象が異なってくる一句です。おそらくは偶然、目にうつった見知らぬ誰かへ向けられつつも、そこに重ねた自分自身に向けて発されたものでしょう。
人間の中には「かなしさ」が備わっているものですが、しし座ほどその悲しさに揺さぶられやすい星座もないのです。
いったん“お籠りモード”になったしし座は「しばらく放っておいて」とへそを曲げつつ、そのくせ、誰かが気にかけてこちらに寄り添ってくれるのをじっと待っていたりするからタチが悪いのです。
作者の「浮いてこい」とは、まさに今週のしし座のあなたにはぴったりの声援と言えるのではないでしょうか。
いつまでも寄り添ってくれる誰かを待っていないで、たまには自分で「かなしみの芯をとり出して」みなさいと。この世界のどこかに、そう声をかけてくれる人物がいるだけで、ありがたい話ではないですか。
タゴールの場合
ただ神のかたわらにあろうとしている人間は、悲しみの極致に何度追いやられたとしても、その度に浮き上がってくることができるのでしょう。例えば、ベンガル出身の大詩人・タゴールなどはその好例と言えるかと思います。
「あなたは私を限りないものにした。それがあなたの楽しみなのだ。この脆い器を、あなたは何度もからにして、またたえず新鮮な生命を注ぎ込んだ。この小さな葦笛を、あなたは山や谷に持ち回り、永遠に新しいメロディーを吹いた。あなたの手の不死の感触に、私の小さな心臓は喜びのあまりに限度を失い、言いようのない言葉を叫ぶ」(『ギーターンジャリ』)
こういう詩を読んでしまうと、冒頭の「浮いてこい」という一言などは、作者の口を借りた神の言葉のようにも思えてきますね。
今週のキーワード
小さな葦笛