しし座
きれいはきたない、きたないはきれい
きたない匂いの深い味
今週のしし座は、『あんずにあかんぼのくその匂ひけり』(室生犀星)という句のごとし。あるいは、内なる野生の新鮮味をできるだけ殺すことなく周囲にもお届けしていくような星回り。
赤ん坊のくそについて、感じたままに、それでいて型にはまることなく詠まれた一句。
音や色に調和があるように、匂いにも調和していくものとそうでないものがあるのでしょう。腋臭と香水のような嫌な臭いの組み合わせがある一方で、あんずの少し甘酸っぱいような匂いとまだ母乳しか飲んでいないような赤ん坊のやわらかな糞の匂いとは、変にハーモニーして、複雑な味わいのカクテルのような何とも言えない余韻を作者に残したのでしょう。
ふつう、そうした複雑なニュアンスを言葉で表現しようとすると、どうしても奇をてらった言葉遣いだったり、一風変わった比喩だとかに走りがちですが、掲句はむしろ平易すぎるくらい平易な物言いがなされています。
ただ平易な物言いが続くと、どうしても日常をそのまま読むだけのつるんとした引っかかりのない句となったり、すべての間接が伸びてダラーっとゆるんでしまっているような句になりがちなのですが、掲句においてはあまり俳句の型にとらわれない自由でのびのびした感じが出ています。
同様に、6月14日にしし座から数えて「深い実感」を意味する2番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、自分の体験の特異性をできるだけありのままに表現していくことがテーマとなっていくでしょう。
不浄を雅致に変えていく
日本の耽美主義を代表する作家・谷崎潤一郎は、関東大震災をきっかけに東京から関西へ移住し、作風もそれまでの大正モダニズムから日本の伝統的な美学が色濃く滲むものへ変わっていき、やがて感得した美学と方法論とを『陰翳礼賛』という一般向けの随筆として発表しました。そこに厠(トイレ)をテーマにした次のような一節があります。
統べてのものを詩化してしまう我等の祖先は住宅中で何処よりも不潔であるべき場所を、却って、雅致のある場所に変え、花鳥風月と結び付けて、なつかしい連想の中へ包むようにした。これを西洋人が頭から不浄扱いにし、公衆の前で口にすることさえ忌むのに比べれば、我等の方が遥かに賢明であり、真に風雅の骨髄を得ている。
この箇所については、ちょうど本が出たのと同じ1933年に日本は国際連盟から脱退して孤立化の道を進み、既に戦争に向かいつつあった状況下で書かれたということと照らしても興味深いのですが、こうして味気ない西洋文物への愚痴と日本の伝統美学への賛美を交互に繰り出していく谷崎の名調子は、どこか今のしし座に通底するものがあります。
すなわち、そこにはまず第一にみずからを取り囲む状況への違和感があり、次におのれが拠って立つために必要な“支え”に対する揺るがなき深い実感の表明がある。その意味で、今週しし座もまた、満を持して語るべき事柄が口をついて出てきやすいタイミングを迎えているのだと言えます。
しし座の今週のキーワード
真の風雅の骨髄