しし座
現実を超えてそこにあるもの
奇妙な芝居の上映
今週のしし座は、『寒鴉己(し)が影の上(へ)におりたちぬ』(芝不器男)という句のごとし。あるいは、自身の生き様を積極的に虚構化していこうとするような星回り。
「寒鴉(かんがらす)」は寒中に見る鴉(からす)のことをいう。1羽2羽で現れることが多く、エサの少ない、厳しい冬を生き抜く姿にはどこか惹かれるものがある。
掲句では、そんな寒鴉が羽をおさめつつ地におりたつ瞬間をスローモーションカメラのように捉えています。漆黒の鴉が地面に近づくにつれ、にわかに影は大きくなり、作者にはあたかもそれが自らの影に吸い込まれる奇妙な光景のように映ったのかも知れません。
いかに冬の微弱な太陽とはいえ、光あるところには必ず影が生まれるもの。その一瞬の出来事を見逃さなかった作者の眼には、どこか鬼気迫るものさえ感じます。
私たちは誰しもが、目の前の「出来事」を客観的に把握している訳ではなく、編集され、創作されたものとして、たえず作り替え続けています。これは逆に言えば、私たちが事実そのものに飽き足らず、物語を生きようとする限り、生のすべては虚構化を免れないのであり、それゆえどこかしらの点で“奇妙な”芝居として上映され続けていくのです。
その意味で、掲句の「寒鴉」はどこかで作者の生きている物語そのものでもあったのでしょう。12月13日にしし座から数えて「創造性」を意味する5番目のいて座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、自身の人生を賭けてメイクドラマしていく瞬間が訪れるはず。
助走線としての「なつかしさ」
私たちはふと目にした光景に対して、特別な「なつかしさ」を覚えることが時々あります。
かつて武蔵野の雑木林が自然主義文学者たちによって再発見されたものであったように、「なつかしさ」というのは自分にとってのアイデンティティを何か遠く離れたものに重ねていくプロセスの中で呼び起こされ、言葉にすることで強調され、タイムマシンのように装置化されていくという側面があるのです。
つまり、「なつかしさ」とは等身大の現実世界から脱却していくための助走線であり、それゆえに「なつかしい光景」というのは普段目に触れている日常世界には存在せず、冒頭の俳句のように、時おり不意をつくかたちで私たちの前に見え隠れしたり、身体にしみいるのであり、本質的にそれは日常と緊張関係をもつ「対抗空間」なのです。
今週のしし座もまた、もしそうした「なつかしい」景観が目の前に現われたなら、意識から消えてしまう前によく目に焼き付けておくこと。その際、言葉で記したり、写真を撮っておくのもいいでしょう。それらは得てして、未来への予期を孕んでいるはずです。
しし座の今週のキーワード
なつかしい未来