しし座
長い夢から醒めた先
ハイハイタンポポ
今週のしし座は、「たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ」(坪内稔典)という句のごとし。あるいは、なんだかよく分からないままに脱皮していくような星回り。
タンポポの名は鼓の音「タン・ポ・ポ」から来た幼児語で、日本の原野に昔から自生していたはずなのに、こんなにも花鳥風月的な情緒に汚染されていない花は珍しいように思います。
掲句は当時五十代の作者が差し当っての辞世の句として詠んだものですが、「たんぽぽのぽぽのあたり」とはどこか、そこが「火事」であるとはどういうことなのか、当の作者にも定かではないのだと言います。ただ「たんぽぽに『ぽぽのあたり』があると考えるだけで、なんだかいい気分。世界がほんの少し広がる気がする」と。
辞世句には風に吹かれるたんぽぽの絮(わた)を詠んだものは多いですが、こういう句を今のところの辞世句とした作者は、一枚も二枚も上手と言わざるを得ません。厳粛な事実を、厳粛なままに表現するのでは、ただ堅苦しくなるだけ。どこか底が抜けていなければ、こざかしい現実は突き破れないのでしょう。
4日夜にしし座から数えて「流出」を意味する12番目のかに座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんな風にリアリティの底が抜けていく感覚を探りあてていくことができるかも知れません。
自分の土俵から逃げ出そう
得てして人は自分の好きなことや得意な面から、自らの存在価値を見積もりがちですが、それだけではいくら経験や知識を蓄積してもアマチュアの域を出ていけないし、そういう人が作り出すものも、本当の意味でクリエイティブなものとはなりえないのだと思います。
創造性とか、創意工夫というのは、むしろそうした自分のよく知る土俵から「逃げる」ことに成功したとき、後からついてくるものであって、大抵の場合は土俵の中から出ていくことができず、ジッとしていながら夢を見ているに過ぎません。そして日本社会というのは、そうした「忠犬ハチ公」的なストーリーを人に押し付けがちでもあります。
しし座のあなたまで、そこに同調しなければならない理由はないのです。煙のように、猫のように。どんな隙間であってもスルリと体を入れて、しなやかな身のこなしで、塀の外へととび出して、アウェイの土俵に入っていくことを楽しんでいきましょう。
今のしし座ならば、「自分の土俵」の抜け穴を見つていくことも、びくびくせずに颯爽と逃げ出してみせることも、そう難しくはないはずです。
今週のキーワード
他人の土俵にしのびこむ