しし座
負け犬こそ力強く、前に進むことができる
駐車場のバーを突き破って
今週のしし座は、映画『リトル・ミス・サンシャイン』に出てくるポンコツ車のごとし。あるいは、自分にできる挑戦に全力を賭けること以外の何かを捨て去っていこうとするような星回り。
開発した自己啓発プログラムの販売を目論むがうまくいかない父と、パイロットを目指して9カ月も無言の誓いを続けていたが途中で色盲が発覚する兄、ヘロイン中毒で施設を追い出された祖父と、恋人にフラれ自殺未遂を起こして保護観察が必要なプルーストの研究者である叔父、そしてそんな叔父を家族の許可なく病院から連れて帰ってきてしまった母。
そんなバラバラだった家族が、眼鏡をかけた決して美人とは言えない末娘のオリーブのミスコン出場を機に車での珍道中を決行し、祖父の急死を乗り越えて、ミスコンで大暴れをしてすべてがふっ切れていくというお話なのですが、ここで注目すべきは彼らを乗せて1100キロもの距離を走ったボロボロのワゴン車。
なんとこの車、途中でギアが壊れ、エンジンが入らなくなるのですが、MT車だったため、なんとかみんなで押して初速をつければ走ることが分かり、以降、さまざまな事件が起きる中をほとんど半壊の状態ながら、それもお構いなしで最後まで走り切り、結果的にそれまで各自があさっての方向を向いたままの烏合の衆だった家族をまとめあげる絆のシンボルになっていくのです。
3月6日にしし座から数えて「賭けに出ること」を意味する5番目のいて座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、駐車場のバーを突き破って高速へと乗り、全速力で走り出していったポンコツ車のように、誰になんと思われようと、ただ自分の好きなことをしていくだけと改めて過ごしていくべし。
無力でポンコツな私から始める
私たちは無意識のうちに「本能だけで生きている他の生物たちよりも、文明を持つ人間は優れている」とどこかで考えていますが、心理学者の岸田秀さんは「真実はむしろその逆」なのだと言っています。
人間は決して動物より高等な生物ではないし、むしろ「人間は本能の壊れた動物」であり、動物と比べて感覚もずっと鈍いし、特質すべき武器や防具も持ちあわせていないポンコツであるがゆえに、文明を作らざるを得なかったのだと。
人間は日常生活をひっくりかえすために戦争をする。そのことによってわれわれがいかに日常生活を憎んでいるかがわかる。(『ものぐさ精神分析』)
人間が本当の意味で憎んでいるのは、きっとおのれの無力さでしょう。
その意味で、今週のしし座は、自己をめぐる真実を少なからず垣間見ていくことで、またゼロから再出発をはかっていくことができるはず。
今週のキーワード
無力ゆえに賭けに出れる