しし座
道化と錫杖
※2021年3月1日~3月7日の週間占いは、公開を延期とさせていただきます。(2021年2月28日追記)
転ばぬ先の杖
今週のしし座は、「春泥にゆきなやみたる杖を突き」(緒方句狂)という句のごとし。あるいは、手探りで創り上げてきた目に見えない資産を再確認していくような星回り。
中七は「行き悩みたる」だろうか。しかし、これをあえてひらがなで表記したところにも工夫があるように思えます。
作者はもともと炭鉱夫として働いていましたが、30歳を過ぎてからダイナマイト事故で失明し、それから俳句を始めた人。掲句では世界が冬の硬質な輪郭を失い、春の陽気のなかでぐちゃぐちゃに溶けあっていくさまを表わした「春泥」という事態に、ひとつひとつ手探りで向きあっている作者の内面がそのまま言語化されたかのような印象を受けます。
同時に、そこではもう一つの目となり手足となってきた「杖」に助けられ、泣き笑いして、苦労を共にしてきた杖への言葉にできない信頼感や一体感も伝わってくるはず。
恐らく、作者は盲目になったことを不幸であったか幸福であったかという次元では捉えていなかったでしょう。そんなことは言っても始まらないことで、彼はただ与えられた常闇の世界のただ中で杖を突き、静かに句を作ってそれを命としていったのではないか。
27日にしし座から数えて「資産」を意味する2番目のおとめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、知らず知らずのうちに蓄えていた資産の心強さを改めて実感していくことができるかも知れません。
「おきあがり小法師」としての盲俳人
おきあがり小法師は福島県の会津地方に古くから伝わる郷土玩具の一つで、「起姫(おきひめ)」とも言うのだそうですが、ウィリアム・ウィルフォードは道化論の集大成である『道化と笏杖』の中で、おきあがり小法師と道化の共通性について指摘しています。
いわく、おきあがり小法師は誰に小突かれても避けることなく引き受ける。これは確かに「愚かな犠牲者」としての道化の一側面とすぐに結びつく。ただ、そこですぐさまウィルフォードが強調しているのが「客観性」という点です。
つまり、大きく殴ればその分大きく倒れ、小さく小突けば同じだけ小さく傾く。そこになんらの歪みがないということであり、決して事を大げさにまくし立てたり逆に過小評価することもない。つねにカウンターバランスが働いているので、いつも揺れていて頼りない存在であるようで、じつは平衡を失わない客観性を保っている。これこそが道化の本質なのだという訳ですが、これはそのまま掲句の作者の姿でもあったのではないでしょうか。
今週のしし座もまた、絶対的な王であろうとするのでも、ひとりで局面を変えてしまう英雄になろうとするのでもなく、周囲を映し出す「鏡」としての道化性をみずからに見出していくことができるはず。
今週のキーワード
カウンターバランス