しし座
場所への頽落
立派な人ではなく展かれる場所になる
今週のしし座は、さながら詩人が根源的な「生きる場所」を切り開くがごとし。あるいは、湧き出るように現れたもう一つの時空の裂け目を前に懐かしさを感じていくような星回り。
日本では近代から現代に時代が進むにしたがって、「作家」という言い方で小説偏重の傾向が強まり、それに反比例するかのように詩人をそれっぽい美辞麗句を重ねるだけの「ポエマー」へと貶めてきました。
しかし一部の人々、例えば哲学者の池田晶子は、詩人とは「ことばと宇宙とが直結していることを本能的に察知している者を言う」と書き、さらに次のように続けてみせました。
(詩人の)感受性は宇宙大に膨張し、そしてそこに在るもろもろのものへと拡散し、それらを抱えて再びことばへと凝縮して来る。彼は、ことばと宇宙とが、そこで閃き、交換する場所なのだ。(『事象そのものへ!』)
奇妙に聞こえるかも知れませんが、彼女にとって「詩人」とは、変わった属性の人間というよりも、何ものかが生起してくる一つの「場所」なのです。しかも詩を詠むとは、そうして生まれてきた言葉をただ既存の世界へと定着させていくことを指す訳ではありません。
あることばがそこに孕む気配、またあることばが既に帯びた色調、それらをかけ合わせ混合し、無限のヴァリエーション、未だ「ない」宇宙が、そこに展かれる場所なのだ。
すなわち、詩作やその朗読とは、新たな宇宙をそこから展開していくことであり、そういう「場所」になりきってこそ、詩人と呼ばれるにふさわしいと考えていたのです。
17日にしし座から数えて「拡散と凝縮」を意味する3番目のてんびん座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、どんな宇宙を切り開いていけるか、またどれだけ「場所」になりきれるかが問われていくことになるでしょう。
頽廃ではなく頽落
21歳で夭逝した作家・久坂葉子の遺したノートには、以下のような書き付けがありました。
あらわにみいだせること―
わがみちは
浪漫―孤絶―虚無―頽廃
この四期のくりかへし。
孤絶のところには横に「詩」と書いて〇がしてありましたが、彼女のような「詩人」の魂をもった人であっても、これらの過程を反復し続けて「場所」になりきっていくということは並大抵の選択ではなかったのかも知れません。
例えば、「頽“廃”」ではなく、「頽“落”」という道を行けたら―。
つまり、堕落とか頽廃とかそういった感傷的な自暴自棄にいたるのではなく、読書に耽り、日常のこまごまとした景色に溺れ、誰かの想いにすっかり吸い寄せられて、夢中になって没入して生きていくことを自分に許せていたら、また違っていたのではないか。ふとそんなことを考えてしまいます。
今週のあなたは、何を繰り返しながら生きていくのか、その選択肢を改めて見定めていこうとしているのだとも言えます。
今週のキーワード
言葉と宇宙を反復すること