しし座
自然な呼吸を楽しむ
おやかに、たおやかに
今週のしし座は、「うき草や今朝はあちらの岸に咲(さく)」(中川乙由)という句のごとし。あるいは、生活に自分なりのリズムをたおやかに刻んでいくような星回り。
浮き草は水田や沼、池なども水面に群生して浮かぶ緑色の米粒ほどの小さな草のことを言いますが、この句の場合は睡蓮のような、もっと大きな葉の植物なのでしょう。
まだ涼やかな夏の朝、水面でゆらゆらとうごめく水かげろうのように、昨日はこちらの岸、今日はあちらの岸と次々に咲いているさまに、だんだんと作者の心は引き込まれつつあるのかも知れません。
同じリズムを刻むのでも、人間がやれば最初はどうしてもぎこちなくなるものですが、それはどこか瞑想することと行動することを対立させざるを得ない心の在り方とも通じているように思います。
14日にしし座から数えて「働くことと息をつくこと」を意味する6番目のやぎ座にある木星・冥王星に改めて焦点があたっていく今週のあなたもまた、人間や“動物”という種に自分を重ね過ぎるのではなく、実際に「うき草」になったつもりで日々を過ごしてみるべし。
快楽としての呼吸
現代人のほとんどは「過換気症」的な状態にあると言われています。これは過度なストレスで身体が興奮状態にあるときに息を吸い過ぎて苦しくなってしまうという、いわゆる過呼吸状態に近く、ひどい場合には手足がしびれたり、意識を失ってしまう人もいます。
気分的には何かに追われている、慌てている感じで、つねに何かをしていなければならないという強迫的な焦りや不安やイライラを抱えており、何か特別な問題に直面していなくても、身体の状態そのものが不安やイライラに陥りやすい状態にある訳で、はっきり自覚できればまだいい方。多くの人ははっきりした自覚もなくそういう状態にあります。
これは近代に欧米で発達し称揚されてきた科学的合理主義やその成果としてのテクノロジーが、精神と身体をつなぐ半自覚的な営みである呼吸を完全に抑圧・忘却することによって深まり・広まりを獲得してきたことの反動でもあり、特に明治以降「科学教」とさえ言えるほどにそうした欧米の姿勢を後追いで取り込んできた日本において、決定的かつ致命的な身体の崩壊を招いてしまった訳です。
ただその一方で、西洋的な合理主義を乗り越えようと、哲学の立場から全身全霊で取り組んだ西田幾多郎による、「かかる世に何を以て楽しみとして生きるか」という自問に対する「呼吸するも一つの快楽なり」という答えは、いまのしし座にとって十二分に立ち戻る価値のある言葉として感じられてくるでしょう。
今週のキーワード
息を吸い過ぎると苦しい。だから、息をゆっくり吐くこと。