しし座
声なき声の浮上
台風の目
今週のしし座は、「蟇だれか物いへ声かぎり」(加藤楸邨)という句のごとし。あるいは、何か言わずにいられぬような切迫感が充溢していくような星回り。
掲句は昭和十四年(1939)、日中戦争の最中であり、国民への戦時統制が強まっていった頃の作。多くの国民がそれに対して、自由に思ったことを口に出せず、物の言えない時代であり、作者はそんな当時の民衆、そして自分自身の姿を鈍重な蟇(ひきがえる)に重ねたのです。
ただその一方で、作者には本当に言うべき言葉、告げたいことというのは、胸の中に秘めておくべきことなのだという気持ちもあったのかも知れません。
というのも、募りくる激しい雨風の中でじっとしている蟇は、台風の目のごとき静寂を保っており、どんなに時代が激動であろうと、その底にあって時代を見つめています。
気軽に物言えぬのなら、どこまでも冷静に時代の動きを見つめてやろう、それを俳人としての自分のポリシーにしよう、そんな思いの萌芽が既に掲句には込められていたのではないでしょうか。
6月21日にしし座から数えて「まだ言葉にならない思いや事実」を意味する12番目のかに座の初めで、日食と新月を迎えていく今のあなたもまた、そんな作者のように本当に誰かに告げるべき言葉が静かに、しかし着実に自分の中に積み上がり、育ちつつあるのを感じていけるはずです。
おのずから浮かんでくる言葉を
かつてアインシュタインは「神」という言葉を使う代わりに、相対性理論を説明する中で「宇宙的宗教感情」という表現を使っていました。そうとしか言いようのない感情が胸を突いたとき、自分は宇宙に向かって頭を下げるのだと彼は言うのです。
これはどこか、西行が伊勢神宮にお参りした時のことを詠んだ、「何事のおはしますをば しらねども かたじけなさに 涙こぼるる」という歌に通じるものがあります。
涙がこぼれる、自然と頭が下がる。そういう風にして、身体がサインを送ってくれているということなのでしょう。
その意味で今週のあなたもまた、「考えて絞り出す」のではなく「おのずと浮かんでくる」という感覚を大切にしていきたいところ。それはアインシュタインや西行やヒキガエルのように、自分にどこまでも素直でいられれば決して難しいことではないはずです。
今週のキーワード
身体は頭より賢い