ふたご座
落としどころを思案する
蟻の地獄と人間の地獄
今週のふたご座は、『蟻のため簡なる地獄備はれり』(相生垣瓜人)という句のごとし。あるいは、自分がすでにそこにはまり込んでいる運命を冷静に見つめ返していくような星回り。
蟻地獄はウスバカゲロウの幼虫で、縁の下などの乾いた土に小さいすり鉢状の穴をつくり、自分はその底に潜んで、ひそかに蟻がおちてくるのを待って、上に上がれずに蟻がもがいているところを食べてしまいます。おそらく、昆虫の世界ではもっとも巧妙なトリックであり、蟻にとって一度そこに落ちれば二度と生きて戻れない地獄であるというところからその名がついているのでしょう。
しかし、掲句の作者はおそらく昆虫の世界ではなく、人間の世界の地獄のことを考えていたのではないでしょうか。地獄図絵で異形の獄卒が針の山や血の池など、想像の限りのさまざまな工夫を凝らして人間を責め苦しめる複雑な地獄の造形にくらべれば、蟻のための地獄はなんと簡素なのだろうかと、誰に言うでもなくポツリとつぶやいている姿が浮かんできます。
一見すると空恐ろしい句のようにも見えますが、別に蟻をもって苦しめてやろうとか、人間の醜悪さを嘆いているといった様子でもなく、ただただ蟻の運命と人間の運命とをどこか並列に目の前に置いて淡々と見つめているだけであり、さながら静かに川を眺めている釈迦のような悟った雰囲気を漂わせています。
7月28日にふたご座から数えて「行き着く果て」を意味する12番目のおうし座で下弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、もし地獄に落ちるならば自分にはどんな地獄がふさわしいか、想像をめぐらせてみるといいでしょう。
地獄の樹木
ダンテの語るところによれば、地獄の第七圏第二環の森では、枝々は節くれだって曲がりくねり、葉は緑というより黒く、果実のならぬかわり毒々しい棘(とげ)を生やしているのだとか。枝を折りとれば傷口が叫んで乱暴をとがめ、血とともに言葉が流れ出す。ここに根を生やした運命をたずねれば、太い息を吐いて、やがて風が声に変わる。
みずから肉体からおのれを引き離した荒ぶる魂は、地獄のこの第七の谷に投げ込まれて、森のなかの、たまたま落ちたところに根を生やし、やがて芽を出し、やがて木となる。するとこの谷に棲息する怪鳥ハルピュイアたちが葉をむさぼって苦痛に窓をあける。
死者は誰でも自分の亡き骸(なきがら)を求めて旅をすると言いますが、この谷に落ちた死者たちは、われとわが手で引きはがした肉体をまとうことは許されず、肉体をその手に引きずりながらこの谷にいたり、それを棘の上に、すなわち、魂の呵責の上にかけるのだとか。
ダンテの地獄の樹木たちが、みずからの炎上を夢見た、とはどこにも書かれていませんが、そんな解放を仮にも想像することさえできないのが、ここの樹木たちの定めなのでしょう。
今週のふたご座もまた、これ以上の地獄はないというシチュエーションとそこからの解放という図式のなかにみずからを見つけていくことになるかも知れません。
ふたご座の今週のキーワード
運命を先回りすること