ふたご座
聖なる獣
特別な呼び声
今週のふたご座は、『鴉呼ぶ鴉の言葉クリスマス』(津川絵理子)という句のごとし。あるいは、俗なるものから切り離された聖なるものへとリアリティーの軸足を移していこうとするような星回り。
年の暮れの何かと飲み会の多いシーズンにカラスと言われると、どうしても市街地で大量に出るゴミへと群がっているような、きわめて俗っぽいイメージを重ねてしまいますが、掲句を読んでいると、そうしたイメージがおのずとひっくり返されていくよう。
一説によると、カラスの言葉は32種類あるそうです。平和飛翔のときの少し間延びした「カーー、カーー」とか、仲間との位置確認の際の「カーカー、カーカー」みたいな畳みかける感じとか、天敵に対しては強めに喉を使って「ガーガーガー」とがなりつけるといったように、注意して聞いていると、確かに私たちが想像している以上に、さまざまに声色を使い分けているのです。中には、ごく稀にしか発されない、他のカラスを呼ぶ特別な呼び声のようなものもあるのかも知れません。
そう考えると、「聖なる夜」とか言いつつも、実際やってること自体は人間の方がよっぽど俗っぽく感じられてきます。一方、カラスには冬にだけ他のカラスとともにねぐらを作る習性があるそうで、自分がねぐらへ帰る際には、一緒にねぐらへ帰るために鳴くのだとか。それは人間の言葉になおすと、一体どんな言葉になるのでしょうか。
12月27日にふたご座から数えて「切実な声」を意味する2番目のかに座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、いっそカラスになったつもりで鳴き声をあげてみるといいでしょう。
ある呪詛について
例えば、中上健次が20歳そこそこの頃に書いた『故郷を葬る歌』という77行におよぶ詩のなかには、次のような言葉が並んでいます。
母千里を殺せ
父、七郎を殺せ、留造を殺せ
姉、鈴枝を殺せ、静代を殺せ、君代を殺せ
熊野よ、わがみくそもじよ
わが町、春日を燃やせ、野田を燃やせ
わが連潯にしるされたもろもろを
呪え
ここに出てくる固有名詞は、実在する作者の血縁の者の名前と同一であり、その意味でもあきらかに異常としか言いようのない詩行です。
しかし、「殺せ」とか「燃やせ」などと書けば書くほど、その禍々しい見た目とは裏腹に、乳飲み子のようにまっすぐに愛を求める作者のナマの欲動が見えてくるはず。
今週のふたご座もまた、そんな中上くらい聖なる獣になったつもりで過ごしてみてはいかがでしょうか。
ふたご座の今週のキーワード
同じねぐらへ一緒に帰るときに発する声