ふたご座
自然な物語を紡ぐ
帰還者&媒介者として
今週のふたご座は、『遠野物語』に登場する語り部のごとし。あるいは、出し惜しみすることなく自身の抱えた物語を解放していこうとするような星回り。
近代以前の日本の村々で語り継がれてきた不思議な物語を聞き書きしてまとめた『遠野物語』にはさまざまな魅力的な語り部が登場しますが、彼らはおそらく、総じて怪異なるものに遭遇しやすい資質を持っていたのでしょう。
例えば、佐々木嘉兵衛という語り部は名を知られた狩人でしたが、獲物を求めて、ひとり、山の奥へと踏み迷っていったとき、そうした資質が増幅されたのでしょう。
彼は若い頃に、山中で黒い髪と白い顔をもつ山女を撃ち殺し、その黒髪を切り取るが、帰り道に眠ってしまったところを山男にそれを取り返されたと話していたり、キジ撃ちの際にキツネにだまされたり、何百とも知れぬオオカミが一斉に群れて走り抜けていくのを木に登ってやり過ごしたこともあったのだとも話しています。
山中では現実と夢や幻想とを隔てる敷居が極端に低くなるのかも知れませんが、その意味で語り部たちというのは、山という豊穣なる物語世界を掘り起こしては、その一部を持ち帰り、伝えることのできた世俗への帰還者であると同時に、それらを文字の記録として残すことをつねとしていった近代以降とそれ以前とをつなぐ媒介者でもあったのだと言えます。
同様に、14日にふたご座から数えて「伝えるべきこと」を意味する7番目のいて座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、自身が出会い、掘り起こしてしまった物語を、しかるべき方法でしかるべき相手に伝えていくべし。
手わざと織物
例えば手つかずの自然を扱うとき、「エコ」とか「環境」などの“概念”が真っ先に口から出てくるようになったのは一体いつの頃からなのでしょうか。少なくとも、レオナルド・ダ・ヴィンチやパウル・クレー、狩野派の絵師たちであれば、同じことを精緻な観察とそれを実現するだけの“技術”=手技でもって目の前に具体的に示してみせたはず。
つまり、近代人は「自然」と言うと、「ネイチャー」だとか「母なるもの」だとか、そこに何かしらの“本質”があるものとすっかり思い込んでしまうところがある訳ですが、自然を扱うだけの技術を持っていた人たちからすれば、自然とは例えばフラクタル図形のような破片の集積でできていて、いわばデジタルだった訳です(デジタルの語源は「指」を意味するラテン語)。
流動している織物のような自然を同じく異質の織物としての感覚器で触れた境界面で作り出される造形のひとつひとつこそが自然であって、それは「自然」という翻訳語が明治期に入ってくる前は山川草木という固体を言い表していたこととも繋がっているのでしょう。
その意味で、今週のふたご座もまた、“指”や“手”から離れたところで何かを語ろうとするのではなく、あくまでそれを運用する“技術”の中で語っていくべし。
ふたご座の今週のキーワード
頭ではなく手先で物語ること