ふたご座
鈍った刀はよく切れる
ハガドン
今週のふたご座は、刀の刃を鈍くしていくよう。あるいは、近代的知性というものの落とし穴から脱していこうとするような星回り。
小林秀雄という批評家が、「よく切れる刀というのは刃(は)が鈍(どん)なんだ」ということを書いているんですが、これは知識人としての在り方としてとても大事なことを言っているように思います。
というのも、学識の豊かさだとか論点の鋭さとか、どうしても頭のいい人だとか、頭が切れることがいいことになっていくのですが、それはどこか大木をカミソリで切るようなところがある訳です。
そういう方向に知性を鍛えていくと、どんどん『ドラえもん』の出木杉君がそのまま大人になったみたいな、職業的な大秀才な人間に近づいていくんですけど、例えば吉本隆明なんかも、夏目漱石だって東大で一度遊びが過ぎて落第していなければ、ああいう風にはなっていない。小説なんて書かなかったし、学者になっていただろうと言っているんですね。
漱石はボートを漕いだり馬に乗ったり悪友と飲んだくれたりした、その落第の1年で「鈍」ということを心得たのだとも言っているんですけど、それは別に1つのことや物事を深刻に考えすぎたりだとか、上から定められた線引きを思いきりはみ出したりして、まわりに迷惑をかけたり、自分を棒にふったりすることであってもいいはずです。
そうしてやっと、中途半端なところで自分で線を引いてしまう、という癖を取っ払うことができたりする。同様に、30日に自分自身の星座であるふたご座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、「鈍」の心得を模索していくべし。
ふたご座の駐車場のバーを突き破って
例えば『リトル・ミス・サンシャイン』という映画には、開発した自己啓発プラグラムの販売を目論むがうまくいかない父と、パイロットを目指して9カ月も無言の誓いを続けていたが途中で色盲が発覚する兄、ヘロイン中毒で施設を追い出された祖父と、同性の恋人にフラれ自殺未遂を起こして保護観察が必要なプルーストの研究者である叔父、そしてそんな叔父を家族の許可なく病院から連れて帰ってきてしまった母という、てんでバラバラの機能不全家族が出てきます。
彼らはある時、眼鏡をかけた決して美人とは言えない末娘のオリーブのミスコン出場を機に車での珍道中を決行し、途中で起きた祖父の急死を乗り越えながらも、ミスコンで大暴れしてすべてがふっ切れていくという結末へ向かっていくのですが、ここで注目すべきは彼らを乗せて1100キロもの距離を走ったボロボロのワゴン車です。
なんとこの車、途中でギアが壊れ、エンジンが入らなくなるのですが、MT車だったため、なんとかみんなで押して初速をつければ走ることが分かり、以降、さまざまな事件が起きる中をほとんど半壊の状態ながら、それもお構いなしで最後まで走り切り、結果的にそれまで各自があさっての方向を向いたままの烏合の衆だった家族をまとめあげる団結のシンボルになっていくのです。
その意味で、今週のふたご座もまた、映画の中で駐車場のバーを突き破って高速へと突き進み、全速力で走り出していったポンコツ車のように、小さくまとまらないでいられるだけのがむしゃらさを自身に与えていくことがテーマとなっていくでしょう。
ふたご座の今週のキーワード
どうしても諦め切れなかったり、割り切れないものとしての「鈍」