ふたご座
回復への希求
「ぞろぞろと」
今週のふたご座は、「黒猫の子のぞろぞろと月夜かな」(飯田龍太)という句のごとし。あるいは、切実な願いや祈りを秘かに込めていくような星回り。
親猫のあとに続いて歩く、何匹もの黒猫の子どもたち。月の美しさに浮かれているのか、それとも月のもたらす不思議なちからに突き動かされているのか。
「子のぞろぞろと」という中七の言い方も、作者のこみあげる笑みや驚きが率直に現われていて微笑ましい。そういう意味では、ずいぶん分かりやすく素朴な句のようにも思えますが、案外この句が立っている場所は深いように思います。
もともと日本では平安時代初期の書物に天皇が黒猫を飼っていたという記述があったり、江戸時代にも「黒猫を飼うと結核が治る」とうわさが広まって黒猫ブームが起きたりと、もともと縁起のいい存在とされ、重宝されてきた歴史がありました。
俳人の四男であった作者には、兄たちが病いや戦争で次々と亡くなった結果、父の跡を継いで俳人となったという経緯があり、掲句もまたそうした父と子をめぐる複雑な歴史を背景とした、日常の平安への祈りや願いが込められているのではないでしょうか。
9月23日にふたご座から数えて「再誕」を意味する5番目のてんびん座へ太陽が移る秋分を迎えていく今週のあなたもまた、自身の傷ついた魂の回復や癒しといったテーマに取り組んでいくことになるかも知れません。
人生の「この先」
カルミネ・アバーテの『帰郷の祭り』という自伝的小説では、貧しい南イタリアから外国へと出稼ぎに行った労働者の、故郷やそこで待つ家族への狂おしいほどの郷愁が、少年の目を通して語られていきます。
「ずっと前から、僕には分かっていた。僕たちみんなのために、僕たちの未来のために、フランスで生活する父さんがどれほどの犠牲を捧げているか」
彼らにとって、故郷とは「こんなに近くに感じているのに、失われてしまったもの」として存在しており、ほとんどの人が当たり前だと感じている「今ここ」さえも、政治や自然など大きな力の前では否応なく、時に永遠に、喪失を余儀なくされてしまうのです。
そしてこれは何も遠い異国のきわめて珍しい例外的エピソードなどではなく、 現代の日本人においても、もはやいつ何時でも起こり得る「分断」的事態であり、特に現在のようなコロナ禍では特にそうした断絶やその痛みを感じやすいのではないでしょうか。
同様に今週のふたご座もまた、結局のところ自分がいま心の底から欲しているものが何なのかということが、浮き彫りになっていきそうです。
ふたご座の今週のキーワード
もう戻れない<時間>を喪失した痛みを起点に