ふたご座
過去を通して今と出会う
こちらは6月14日週の占いです。6月21日週の占いは諸事情により公開を遅らせていただきます。申し訳ございません。
非意識的想起
今週のふたご座は、「沙河にゆきたし六月私は小馬」(阿部完市)という句のごとし。あるいは、精神の原郷へと遡行していくような星回り。
「沙河(さが)」とは中国河南省を流れる長江・黄河に次ぐ第三の大河である淮河の一支流のこと。
六月の初夏の体感として、自分は小馬であり、中国の水流豊かな沙河にゆきたいのだと言う。沙河、六月、小馬という一言一言の言葉の連なりそのものが、詩となり透明感のある作品と成り得ている一句。
ここでは、「沙河」とは具体的な地名や特定の場所というよりも、どこか遠くにある精神の原郷であり、幼年時代のなつかしき世界への遡行を思わせますが、それでいて「ゆきたし」という作者の明確な意志を引き出すものでもあります。
おそらく、これは甘い感傷をさそう現実逃避行をうたったものでも、単に過去を思い出している訳でもなく、かつて現在であった試しのない純粋過去という形式を介して、今この瞬間の現在にはじめて出会おうとしているのではないでしょうか。
18日にふたご座から数えて「想起」を意味する4番目のおとめ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そんなパラドキシカルな回路を通して、生きている実感を感じ直していくことができるかも知れません。
自分が入れ替わるとき
隆慶一郎原作の『影武者徳川家康』では、主人公であるはずの徳川家康が実は関ヶ原の戦いで開戦早々に暗殺されてしまい、その場の機転で影武者と入れ替わり、そのまま徳川家康として生き続けていくというところから物語が始まっていきます。
影武者の名は、世良田二郎三郎元信。もともとは芸能や各種専門技能に携わりつつ全国を自由にさすらう「道々の輩(ともがら)」という賤民階級の出身で、ひょんなことから拾われて家康の影武者を10年間つとめた末の交代劇でした。
もちろんこの作品はあくまでフィクションではありますが、名前は以前とまったく同じでも、中身はまったくの別人へと変わってしまう機会というものは、人によっては人生には何度か用意されているものなのかも知れません。
そして、掲句の作者にとって、句を詠むということは、そういう機会と出会い直していくためのきっかけ作りだったのかも知れません。
今週のふたご座はそんな人生の分かれ道へと、不意に出くわしていくような気配がしてなりません。
ふたご座の今週のキーワード
「見ゆ」という古語