やぎ座
見つけたり見つけられたり
生々しい現実はつねに奇妙
今週のやぎ座は、「虫の眼」による記録のごとし。あるいは、自分がはいずりまわっている地上の在り様やそこでの発見を語り継いでいこうとするような星回り。
予想不可能な出来事の渦中にある時ほど「虫の眼」で物事を見ていくことが大切になると説いていたのは、精神科医の中井久夫でした。
中井は『昨日のごとく―災厄の年の記録―』という本の中で、1995年の阪神・淡路大震災とその直後の日々を送る自身のまなざしの在り方について、「これは決して鳥の眼でみたこの一年ではない。地上をはいずりまわる虫の眼でみている私は多くを見落とし、多くをぼんやりと、多くを間違ってみているだろう」と書いていました。
これは災害下の精神科救急やボランティアの対応など、日々の仕事に終われ、ゆっくりと過去を振り返る暇などとても持てなかったであろう中井にとっては致し方ないことであったと同時に、そうしたまなざしからでしか見えてこない、それまでの日常では見えにくかった社会の断面を粘り強く切り開いていこうという意図もあったように思います。
実際、1995年2月の記録にはアルコール依存による「較差(格差)」とともに、「何よりも、貧富の差がハサミ状に拡大するのが眼にみえるように思われた」という書き込みがあり、「社会的なパワーを持ち人脈の広い人」が有利であること、「故郷に地縁を残す人」、「友人の多い人」とそうでない人の差が意外なほど現れているさまを報告しています。
当時はバブル経済がはじけたとはいえ、「一億総中流」という言葉がまだまことしやかに信じられていたこともあって、こうしたなまなましい現実はかなりの衝撃とともに受け止められました。一方で、社会における貧富の差がすっかり当然の前提となり、その上で個々の自由が拡大されていく方向にある現在の社会を生き抜いていく上でも、こうした「虫の眼」による記録の重要性はますます増しているのではないでしょうか。
9月22日にやぎ座から数えて「世間との折り合い」を意味する10番目のてんびん座へ太陽が移っていく(秋分)ところから始まる今週のあなたもまた、彼のような粘り強く思索を深めていく態度とともに、自身の「虫の眼」もまた改めて大切にしていきたいところです。
ある航空管制官と夜の闇
まだ夜間の飛行が命がけだった時代、郵便事業に命をかけた者たちを描いた文学作品に、サン=テグジュペリの『夜間飛行』があります。主人公は「嫌われ者の上司に睨まれることで初めて現場の規律は保たれる」という信念のもと、部下に1つのミスも許さない厳しい姿勢をとる上司であり、欧州から南米間の航路を受け持つ責任者であるリヴィエール。
彼は内心の葛藤や孤独に苦しみつつも、それを紛らわすために繰り出した散歩からの帰り道、ふと見上げた夜空の星に何かを感じ取ります。
今夜は、二台も自分の飛行機が飛んでいるのだから、僕はあの空の全体に責任があるのだ、あの星は、この群衆の中に僕をたずねる信号だ、星が僕を見つけたのだ。だから僕はこんなに場違いな気持ちで、孤独のような気持ちがしたりする
人間にとって夜とは、ある意味で死に近づいていく時間帯であり、だからこそ夜の底に埋もれた宝物を見つけていくことで、改めて生を更新していく契機でもあるのでしょう。
そして、今週のやぎ座もまた、他の誰かのために割かれる時間だけでなく、純粋に自分自身のいのちを養うのための時間を確保していくことをどうか大切に。
やぎ座の今週のキーワード
星が僕を見つける感覚