やぎ座
素直になれ
百歩の宙
今週のやぎ座は、『吊橋や百歩の宙(ちゅう)の秋の風』(水原秋櫻子)という句のごとし。あるいは、ここしばらく密かに感じていたことを思いきり全身で表現していこうとするような星回り。
ちょっとした木立のなかの径を歩いていくと、不意に視界がひらけて明るくなり、川の音が聞こえてきた。目の前には深い谷と、そこにかかる細い吊り橋。
他に道はないので、ゆらゆらとゆれる吊り橋を最後まで渡り切らねばならない。そして、実際に渡ってみてわかったが、吊り橋を渡るとは巨大な渓谷の宙をわたるということでもある。
そこにはさわやかな秋の風が一段と強く吹いており、足もとの心許なさとあいまって、余計に身に沁みわたってくるように感じられたはず。
「百歩の宙」という表現は、まさにそんなこの世界でいつの間にかひとりになってしまったようでもあれば、地上にはじめて降り立った時のようでもあるような宇宙的孤独の“感じ”を、重くなることなくあくまで軽やかに言い表しているように感じます。
この句はパッと風景全体が見えてくるだけでなく、そこで作者がかすんでしまわずに確かな存在感が示されていることで、小さくまとまってしまわずにかえってスケールの大きさが出ているのではないでしょうか。
同様に、20日にやぎ座から数えて「体感的本音」を意味する2番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、いくらなかったことにしようとしても消すことのできなかった実感や感覚が、ここにきて一気に膨張していきやすいでしょう。
「環境」から「自然」へ
戦後、日本は列島の大部分を占める山々の広葉樹を針葉樹にかえて、それを材木にするということを国家的なプロジェクトとして行いました。にも関わらず、昭和30年代には材木の輸入自由化をしてしまい、民間に丸投げしてそのケアを一切してこないまま来てしまった弊害がここ20年くらいで一気に噴出してきているように思います。
スギは保水力も弱いので山々が崩れやすくなって水害が多発するようになりましたし、下草も生えないので熊や獣などもエサを求めて里へ下りてこざるを得なくなり、また花粉症はもはやありふれたアレルギー症状となってしまいました。
いわば「自然」にぼうぼうと生えていた記号化不可能な手触りをつるつるに脱毛処理して、複雑な意味を孕んだ次元を削ぎ落し、「環境」という科学概念へとならし続けてきたツケが閾値を超えて支払いを余儀なくされてしまっている訳です。
それは、3.11を契機により分かりやすく露呈したことでもあり、多くの人がそこで忘れかけてきた「自然」というものを直感したのではないでしょうか。
今週のやぎ座もまた、いつかどこかの時点でやらなくてはいけないと思っていた自分事について、もう先延ばしにできないという思いを改めて抱いていくことになるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
里に下りてきた熊を山へと還していく、ようなこと