やぎ座
不条理とのゲリラ戦
「ノン」というパズル
今週のやぎ座は、世界全体に否定を突きつけた双子のごとし。あるいは、いかに不条理の自覚的肯定=負けない経験を積んでいけるかが問われていくような星回り。
歴史の急変に翻弄されて悲劇的な死を遂げていく人もいれば、驚くべきたくましさで生き残り以前よりも強く豊かな生を手に入れていく人もいる。歴史的な動乱期というのは、どうしても人間存在やその生の光と闇のコントラストが激しくなってくるものですが、戦争孤児の双子の生きざまを日記形式で描いたアゴタ・クリストフの小説『悪童日記』は、いかにもお涙頂戴的なストーリーにも、重苦しいだけの歴史の講釈にもなっていない、国や時代の違いをこえた普遍的な強度を備えています。
例えば、強制収容所にひかれていく人たちを見た後、司祭から一緒に祈るかと聞かれた2人は次のように答えています。
ぼくたちが絶対にお祈りをしないことは、ご存知のはずです。そうじゃなくて、ぼくたちは理解したいんです
2人のこうした態度は一見すると傲岸であり、周囲の空気をいたずらに乱しているようにも見えますが、彼らにとっては世界の恐るべき不条理に負けないための切実な抵抗であり、そうした不条理について「ウイ(YES)」と肯定で返していくことによって、2人は負けない経験を積み重ねていく。
そして、一つひとつは小さな経験であったものがパズルのように組み合わさって、やがて世界全体に対して「ノン」と否定を突きつけるにいたるのです。先の、不条理な世界をありのままに分かりたいというのは、そうすることで初めてちゃんと自分たちを肯定しつつ生きていくことができるんだ、という作者なりのメッセージでもあったように思われます。
そして、こうした世界との戦い方や抜け出し方というのは、今のやぎ座にとって大いに指針となっていくはず。2月10日にやぎ座から数えて「実存」を意味する2番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、「塵も積もれば山となる」ではないですが、双子がそうしていたように、小さな「ウイ」を積み重ねていきたいところです。
<正しい問い>を見出すこと
2000年代に起きた史上最大の企業スキャンダルであるエンロン事件は、70年代のウォーターゲート事件と比較すると、明らかに違いがあります。それは後者の場合、スキャンダルの種は隠されていて、記者が危ない橋をわたって関係組織内部に入り込み、情報を物理的に掘り出すことで初めて明らかになったのに対し、前者の場合は隠された情報はなくて、はじめからすべて公開されていたという点です。
エンロン事件をすっぱ抜いた記者は、公開されてはいたがパッと見ただけでは分類すら不明瞭で何を示しているのかも分からないデータを地道に読み解き、まさにパズルのようにつなぎ合わせていくことで粉飾決済の実相を浮かび上がらせました。
この違いの意味するところは、あらゆる情報がデジタル空間においてアーカイブ化されるようになった現代においては、<答え>はそれとしてきわめて具体的に目の前にあるにも関わらず、私たちはそれを理解するための<正しい問い>を見出すことができないがゆえに、多くの歪んだ状況を認識すらできず、脱け出すことができないでいるということ。
その意味で今週のやぎ座もまた、どれだけ自分の置かれた事態を客観的に認識できるか、そしてそれを小さな問いへと変換できるかが問われていくことになるでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
小さな「ウイ」を積み重ねる