やぎ座
自我の脱落
ただいま不在です
今週のやぎ座は、『南風吹くカレーライスに海と陸』(櫂未知子)という句のごとし。あるいは、とことん自分を追っていくうちに“穴”に落ちてしまうような星回り。
テラス席のようなところで、カレーライスを食べている。そこに南風がぶわっと吹いてきて「夏だなあ」と感じる。それから、ふと視線を落として「あッ」となった。ルーのところが海で、ライスが陸じゃないか、と。そう気付いた瞬間、脳裏には夏の山河が広がっていく。
こうした飛躍をふくんだ見立ては、なんとなくやっているように見えても、わざとらしくならないように一つの句にするのは、実際には相当に難しいはず。掲句の場合、あとに残るのはどこか爽やかな夏の空気感だけであり、そこにはさかしらな自我のようなものは何も感じられません。
それは言葉にしてみれば、「あッ」という驚きとともに自我が脱落したまま、その空いたすき間を午後に合う予定になっている相手のことやいま追われている仕事について考えたりして再び自意識で埋めてしまうことなく、われが雲散霧消した“感じ”をそのまま残すことができたゆえに成立している脱俗的な味わいなのだとも言えます。
その意味で、いい俳句というのは作者がほどよくこの世のしがらみから抜けていることを示しつつ、余計な雑事が入ってこないように防いでくれる「臨時休業の張り紙」のようなものなのかも知れません。
8月2日にやぎ座から数えて「実感の深まり」を意味する2番目のみずがめ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、さかしらな自我をどこまで消していけるかということがテーマとなっていくでしょう。
超芸術トマソンの思い出
1980年代に赤瀬川原平らが発見し提唱した「超芸術トマソン」や、路上観察学会の活動というのも、そうしたテーマに通底していくように思います。
これは当時四谷にあった「上り下りする形態と機能はありながら、上った先には出入り口が無く、降りてくるしかない立派な階段」のように、存在がまるで芸術のようでありながら、その役に立たなさ・非実用性において、芸術よりももっと芸術らしい物のことを指したもののこと。
つまり、世間の誰もが「作品」などと見なすことは想像だにしていないものの中にこそ、真の芸術性を見出し、発見していく営みをそう呼んだ訳ですが、今のあなたには、どこかそんなトマソンブームを彷彿とさせる美学の萌芽が、お天気雨のように、唐突に降って湧いてくるような気配があります。
今週のやぎ座もまた、もしそうした機会を得たならば、ぜひそのチャンスを生かして今の自分の心身が喜ぶ楽しみをぜひとも追求してみるべし。
やぎ座の今週のキーワード
お天気雨のように、唐突に