やぎ座
新しさに身を置いて
※7月2日配信の占いの内容に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。(2023年7月3日15時11分更新)
生き抜こうとする者のリアル
今週のやぎ座は、『学会の夜のホテルに泳ぎけり』(杉田菜穂)という句のごとし。あるいは、人生のひとつの到達点として自身の「力の抜け加減」をはかっていくような星回り。
作者は大学につとめる学者であり、掲句も泊りがけで学会に参加するという職業生活の一場面を切り取った一句ですが、俳句として見るとどこか他にはない新しさがあります。
この新しさがどこから来るのかについて考えてみると、俳句らしい俳句というのが、ほとんど何気ない暮らしの一幕を扱った日常詠であることや、そうでなくても得てして女性の作者の場合、男性中心に設計された日本社会の中で蓄積されたしんどさや反発のようなものが句に宿りがちであることなどが挙げられるかも知れません。
その点、掲句はどこかそうした社会への意識を過剰に持ちあわせている訳でもなければ、かと言って、ささやかな日常に綺麗におさまってしまっている訳でもなく、ちょうどいい塩梅で力の抜けた印象を受ける。
夜の首都高をストレス発散のために車をかっ飛ばすのでも構わないけれど、「泳ぎけり」という結びの詠嘆には、文明の力によるごり押しとも、純粋な愛らしさとも異なる、しなやかな力強さがあって、それが「夜のホテル」という情景の妙とあいまって、現代をしたたかに生き抜こうとする者のリアルを垣間見させられた感じがするのでしょう。
7月3日に自分自身の星座であるやぎ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、それくらいのちょうどいい塩梅で、この世界と押し引きしていきたいところです。
滑稽と颯爽のはざまに立つ
ここで思い出されるのが、中世のヴェネチアを舞台にした『抜目のない未亡人』という戯曲。あらすじは、資産家と結婚した後、夫と死別した若き未亡人が、再婚でもう一花咲かせようと奮闘するというもの。フランス、イギリス、イタリア、スペインの男性達を見並べて、各国の女性たちに化けてこなをかけ、誰が一番誠実な男性かを試そうというもの。
それはさながら、鳴かないホトトギスを前に、殺すか、待つか、鳴かせてみせるかを案じる戦国大名でもあり、要は初めからいちゃもんをつけるつもりで男性達に対している訳です。
どこか未亡人だけが力み返っているような滑稽さと、女としての意地を貫こうとするいじらしさとが混じり合って、何とも言えないアンビバレントな感情が生まれてくるお話なのですが、不思議なのは、どこかそんな未亡人に颯爽たる勢いのようなものが感じられてくるところ。
それは、従来の花のように大事にされる“べき”女性像をかなぐり捨てて、自分の生き残りへときっぱりと邁進しているからかも知れません。今週のやぎ座もまた、滑稽を通り越したところにある颯爽へと至れるかということが、ひとつのテーマとなっていくでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
アンビバレントな感情