やぎ座
“正しさ”を超えていくために
老木の教訓
今週のやぎ座は、オークランドの「オールド・サバイバー」のごとし。あるいは、あえて「ご隠居」的に生きる感覚をつかんでいこうとするような星回り。
アーティストで作家のジェニー・オデルは、居を構えるオークランドを見下ろす山々の中で1本だけ残った原生レッドウッドで、「オールド・サバイバー」という愛称で呼ばれる老木から受けとった2つの教訓について書いています(『何もしない』)。
第一の教訓は、抵抗すること。この老木が伝説的存在になっているのは、唯一生き残った原生木であるという事実だけでなく、生えていた場所が非常に分かりにくく、滅多に人が近づけない急な断崖の上に生えているということも関係していました。そのために伐採をまぬがれてきた訳ですが、加えて、樹形がねじ曲がっていて他の原生木とくらべると中途半端な高さしかなかったということも大きかったのです。
つまり、この老木が生き残ることができたのは、伐採する人間側からすれば「役に立たない」木だったからであり、これは人間に置き換えれば、みずからのキャリアやライフスタイルを資本主義的な価値体系にやすやすと占有されないようにすることに他ならず、年収だとかフォロワー数などの代わりに、もっと曖昧で、消費されにくい概念に従って生きるということ。
もう1つの教訓は、過去や生態系とのつながり。老木は単に樹齢が長いというだけでなく、その地の先住民の狩猟採集生活、そして白人の到来と数多の蛮行を、不動の視点から目撃し続けてきた歴史の生き証人であると同時に、その地に息づくさまざまな動植物らによって形成されているローカルな生態系を破壊せずに保全している現役の観察官でもあります。これは、現代の私たちが歴史に対して記憶喪失的になりがちで、しばしば個人主義的な視野狭窄に陥ってしまうのとはじつに対照的ではないでしょうか。
6月4日にやぎ座から数えて「終わらせるべきこと」を意味する12番目のいて座の満月に向け月が膨らんでいく今週のあなたもまた、現行の流行やスタンダードな目標からいかに身を引いていけるかということがテーマになっていきそうです。
人間の脳の陥りがちな罠
「粘菌」は進化の初期に現れた生物で、200万年前に出現したヒトからすれば、「オールド・サバイバー」を超えた生物の大先輩であり、何百倍もの長い年月を生き抜いて今なお繁栄している不思議な存在なのですが、その最大の特徴が「自律分散型のシステム」です。
これは人間が体全体の情報をいったん「脳」に一点集中させ、そこから集中管理方式で判断を下していくことで効率を上げているのと対照的に、粘菌はいわば部分部分がそれぞれ勝手気ままに振る舞っているにも関わらず、突然起こった問題に対しても自在に適応でき、迷路を解いたり、複雑で発達した交通網を独自に構築できたりする由縁でもあります。
重要なポイントは、粘菌は考え過ぎたりせず、とりあえず動くことに徹していること。そもそも、「正しい答えを選ぼう」と強迫観念的に考えてしまうこと自体が脳の罠であり、そうして考えて手を出したりすると、余計な力が入ってしまって、それまでなんとなくうまくいってたことまで出来なくなってしまうということが人間には非常によくある訳で、こうした脳にばかり依存したシステムこそ、そろそろ終わらせていくべきことなのかも知れません。
今週のやぎ座もまた、特定の正解を探すのはよして、粘菌のようにとりあえず動いて、後は「残るべくして残るものが残る」といったやり方に切り替えてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
STOP!脳の一点集中