やぎ座
奥は水平
僕らは一緒に遠くに歩いて行こう
今週のやぎ座は、因幡(いなば)の白兎のごとし。あるいは、政治的な「正統さ」から逸脱していくための想像力と言葉とを養っていこうとするような星回り。
日本もそのど真ん中を行く家父長制的な社会では、結婚して家庭を持ってマイホームを構えるべきとか、女はエロスを持たない良妻賢母となるべきとか、「正統」とされていることから逸脱するセクシュアリティや生き方をしていると、これでもかと言うくらいに蔑まれたり、下に見られたり、村八分にされたりしますが、そうした暴力に抗していくには、やはりもう1つの現実を浮かび上がらせるだけの想像力と言葉とが必要となってきます。
例えば、多和田葉子の小説『星に仄めかされて』では、北欧に留学中に日本とおぼしき母国を失ったHirukoが同郷人のSusanooに会うために国境を越え、彼女を慕うクヌート、ナヌーク、ノラ、アカッシュら言語も性的志向もばらばらの面子とともにコペンハーゲンに集結します。
彼らはそれぞれが周囲の無理解や自身の抑圧に悩んでいるのですが、例えばHirukoは「いつもクヌートとくっついているのに恋人関係にはならない。他に恋人がいるわけではないし家族も一人もいない。それなのに飄々として生きている」し、一方のクヌートは「母親に性欲があることがどうしても許せない」ことを誰にも話せないでいたりする。しかしそれでも、彼らは「正統」なセクシュアリティや生き方からの逸脱をめぐって対話しながら、何らかの解決を模索していこうとする態度では共通しており、それはHirukoとクヌートの次のような会話に象徴的に表れています。
「深い、は違う。深い、は垂直。奥は水平。」
「そうか。水平か。地面に穴を掘って入っていくんじゃなくて、遠くに歩いていけばいいんだ。僕らは一緒に遠くに歩いて行こう。」
多様性を排除する愛情ではなく、友情で「水平」に繋がっていくふたりの関係性は、ここで小説内で重要なモチーフである因幡の白兎の神話とも重層的に響きあっていくのですが、クィアで異質な人間がこの異性愛中心のこの社会で生きていく上で、「一緒に遠くに歩いて行こう」という言葉は1つの光明となっていくのではないでしょうか。
4月6日にやぎ座から数えて「対世間」を意味する10番目のてんびん座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、他者への関わりを通して、自分なりの「水平」を広げていけるといいのですが。
星の友情
たとえば私が「土星」だとして、友達であった人が「火星」だとしましょう。火星と土星はとてつもなく離れていますが、ある時期近くを並走することはあるかも知れません。しかしそれはあくまで一時的な事態で、基本的にはそれぞれが進むべき軌道にしたがって、まったくの別の進路へ向かい、離れ離れになっていきます。
しかし、離れ離れでいるからと言って、無関係になるわけではありません。なぜなら、土星も火星も同じ太陽系という秩序に属しながら、ともに銀河というさらに大きな秩序内をめぐっているから。
もちろん、これはあくまで比喩ではありますが、「水平」につながって一緒に歩いて行くとはこういうことでもあるのではないでしょうか。今週のやぎ座もまた、そんな星の友情を念頭に置いてみるといいかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
友達以上のもの