やぎ座
負けるが勝ちよ
疑似家族の安らぎと歪み
今週のやぎ座は、映画『ブギーナイツ』の視聴感のごとし。あるいは、グロテスクな内輪感を身近に感じていこうとするような星回り。
ポール・トーマス・アンダーソン監督の映画『ブギーナイツ』は、70年代末のアメリカ西海岸を舞台に、ポルノ映画産業の内幕を描いた作品なのですが、80年代に入るとビデオが主流となってポルノ映画は斜陽になっていったという時代背景もあって、それぞれに鬱屈や悲しみを抱えた登場人物たちは、物語が進んでいくにつれ、軒並みじりじりと追い詰められていきます。
一方で、この作品を何とも言えない魅力的なものにしているのが、ポルノ映画監督でありプロデューサーであるジャック・ホーナ―の存在であり、何よりその父性的な魅力です。自意識過剰なポルノ男優である主人公のエディをはじめ、世間から蔑まれ拒絶された者たちが、ジャックのもとに集まってきては、ある種のシェルターや疑似家族を形成していく。
こうした登場人物がファミリー内で得る安心感や癒やしと、彼らに待ち受けているであろう現実の残酷さのちぐはぐさが、一見すると喧噪と華やかさに彩られたポルノ映画業界のイメージと、所詮は落ちこぼれ人間の寄せ集めに過ぎないという実態とのギャップもあいまって、じわじわ系のホラー作品のような視聴感が立ち上がってくるのです。
しかし、こうした内輪でしか通用しない感覚がとことん煮詰められることによって精神が奇形化していく人間の怖ろしさというのは、現代の日本社会に生きる私たちにとっても縁遠いものではないはず。
10日にやぎ座から数えて「ホーム」を意味する4番目のおひつじ座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、内輪の心地よさと怖ろしさとを改めて痛感していくことになるかも知れません。
憎まれ役を買って出る
「かくれんぼ」なんかの遊びにも出てくる「鬼」というのは、神に逆らい平和を乱す反逆者ということになっており、そのため鬼は疎まれ恐れられる世間の憎まれ役でもあります。
ただ、昔話における鬼の在り様を注意して見ていくと、たいてい‟神”を滅するほどの力は持たないながらも、多数派や征服者側に服従することをよしとしなかった「まつろわぬ民」やその末裔のメタファーにもなっていることに気が付いていきますし、その意味で、桃太郎の鬼が島というのも、ある種のホーナー・ファミリーだった訳です。
その意味で、鬼が島の鬼たちが外部からやってきた桃太郎の挑戦を受けてたち、見事に敗れていったのは、もうこれ以上は奇形化に耐えきれないと悟った彼らの密かなる望みでもあったのではないでしょうか。同様に、今週のやぎ座もまた、時にはあえて負ける側に立つことで救われることもあるのだということを、身をもって知っていけるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
太宰治の『お伽草紙』