やぎ座
平凡さを噛みしめる
健全な風景
今週のやぎ座は、『鰯雲ある日の海豚調教師』(四條五郎)という句のごとし。あるいは、さりげない偶然や余白が胸の内に吹き込んでくるような星回り。
夏のあいだ、子どもや家族連れなどの一般客で大賑わいだった水族館も、秋の訪れとともにだんだん静けさや落ち着きを取り戻していきます。
掲句の空に「鰯雲」が浮かぶ「ある日」というのも、そんな賑わいの過ぎたタイミングを暗示しているのでしょう。そしてそんな人気のない水族館では、「海豚(いるか)」と「調教師」もまた忙しくイルカショーを演じていたときは別の顔も垣間見せてくれるはず。
ふと見せるイルカのあどけない振る舞いに、仕事の範囲外で現われた飼育員の何気ない愛情。そんな余人を交えぬ瞬間にたまたま居合わせた作者は、きっと微笑を浮かべていっとき佇んだあと、静かに立ち去っていったに違いありません。
そして作者はそこに「見世物」と「主催」という、どこか予定調和の陰に走る緊張感から解放された、純粋な偶然や余白を見出した。そんなこともあったのかも知れません。
同様に、9月10日にやぎ座から数えて「遊び」を意味する3番目のうお座で満月を迎えていく今週のあなたもまた、なんの裏も意図もないところで交わされるちょっとしたコミュニケーションに心救われていくことでしょう。
柳宗悦の「健康の美」
民藝運動の父・柳宗悦は、日本全国をめぐって各地の手仕事に触れた経験をもとに『手仕事の国』という民藝案内書をまとめました。その中で、彼は日本がいかにすばらしい手仕事の国であることへの認識を呼びかけると同時に、「工藝の美しさはどんな性質のものでなければならないのか?」という問いを立てた上で、みずから次のように答えていました。
どんな性質の美しさも、「健康」ということ以上の強みを有つことは出来ません。なぜかくも「健康さ」が尊いのでしょうか。それは自然が欲している一番素直な正当な状態であるからと答えてよいでありましょう。
この世にどんな美があろうとも、結局「正常」の美が最後の美であることを知らねばなりません。凡ての美はいつかここを何か平凡なことのように取られるかも知れませんが、実はこれより深く高い境地はないのであります。
単純さと健全さとは極めて深い間柄にあります。日本で深い美の姿として、いつも讃えられる「渋さの美」は、要するに単純な姿を離れては存在しないのであります。
今週のやぎ座もまた、柳が言わんとした「健康美」や「渋さの美」ということを、自分ならどこでなら成立させられるか、改めて考えてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
当たり前のことを当たり前に