やぎ座
ツッコまれてナンボです
恐るべきイタコ芸
今週のやぎ座は、『スプーン曲げコインを消して休暇果つ』(中山奈々)という句のごとし。あるいは、思わず「なんだそりゃ!」とツッコミを入れたくなる事態の最中に入っていくような星回り。
わけわかんない出来事を、そのまま詠んだ一句。まず間違いなく作者本人であろう作中主体は、超能力者を真似ておそらく真剣に「スプーン曲げ」に取り組んでいたのでしょう。
けれど、なかなかスプーンは曲がらない。とはいえ、手応えらしきものは一応あって、もうちょっとでできそうな気がする!と最後の力をふりしぼったところで、スプーンが曲がる代わりにコインが消え、気が付くと連休は終わっていた。
思わず「なんだそりゃ」とツッコミを入れたくなる話ですが、そんな魅力的な文脈をわずか十七文字で表現してしまったところに、作者の本当の恐ろしさがあるわけです。
なんだかんだと人を巻き込み、話題の中心になってしまう人というのは、大抵こういう「わけわかんない」ところがあるのではないでしょうか。
その意味で、5月5日にやぎ座から数えて「自己表現」を意味する5番目のおうし座で「独創性」の天王星と「活性化」の太陽が重なっていく今週のあなたもまた、いつの間にかそうした「わけのわかんなさ」を宿して周囲を振り回してしまいかねないでしょう。
鉛玉から穴の開いた玉へ
「わけのわかんなさ」というものは目に見えず、突如としてあらぬ方向からやってきては、いつの間にか去っていくという意味では、風と似たようなとことがあるように思います。
風もまた四方八方から吹いてくるし、強くなってはなぎ、すぐに方向を変え、予測や予断を許しませんが、古代ギリシア語ではそんな風のことを「プネウマ」と呼んでいました。普遍的な実体としての「霊」のことです。
そして西洋哲学では、そんな風や霊がよどんで情念として沈殿した状態が、個別的な魂(プシュケー)であり、自分が自分であることの中核なのだと考えてきました。
そこでは、確固とした自分を持つことだとか、どんな風にもびくともしない堅牢な教会のごとき業績を残すことが、崩れにくい「優れた個人」の見本とされてきた訳ですが、そうした近代的なモデルの正しさはとうに崩れつつあるのではないでしょうか。
そういう意味で、今週のやぎ座はこれまでの強固で鉛玉のような個人とは別の、もっとゆらめいたり、しなったり、情勢に応じてどこかへ流れていってしまうような「プネウマ」をよく通す、穴の開いた個人へとみずからをシフトさせていくことがテーマなのだと言えるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
淀みなく流れ去るままに