やぎ座
カオスとエロスがこんにちは
大地主義
今週のやぎ座は、「下方への脱魂」への誘いのごとし。あるいは、ロシア思想的な泥臭さをみずからの思想の中心軸に添えていこうとするような星回り。
神秘主義的体験は、なにも現実の上に向かう方向ばかりではなく、現実の下に向かう方向にも成立しうる事実を、これまで数々の芸術家や詩人たちが身をもって示してきましたが、その内実について、思想家の井筒俊彦は『ロシア的人間』の中で次のように述べています。
カオスは征服はされても死滅したのではなかった。ただ人間的世界の地表から姿を隠してしまいたかっただけである。「一切の矛盾と一切の醜悪の、ぱっくり口開けた不気味な深淵、裏返しの無限性」であるカオスは、今でも依然として地下深いところに生き続け、のたうっているのだ。そうしてこの怪物の気味悪い呻き声は、地の底から浮び上がって来ては人間世界の到るところに暗い否定の影を投げかける。
こうした深淵について、人間は身を投げ出したい衝動を確かに持っているのであり、それは大地との一体化とも、「下方への脱魂」とも呼ばれてきましたし、例えばドフトエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』において、ゾシマ長老の死後にアリョーシャが自分でもその理由が分からぬまま大地を抱きしめ、大地と接吻していたシーンに象徴的に表されてもいました。
同様に、2月1日にやぎ座から数えて「エロスの回復」を意味する2番目のみずがめ座で新月を迎えていく今週のあなたもまた、魑魅魍魎として地上を這いずり回っていくべし。
危険なダイモンとしてのエロス
例えば、十代の頃というのは、苦々しいほどにエロスをこじらせている時分でもありますが、そもそもエロスとはどんなものだったのでしょうか。
一般的に翼をはやした無害な幼児の姿で連想されることの多い「エロス」は、ギリシャ神話においては最古の神々のひとりであり、「愛する(エマライ)」などの関連語の一族を伴なって日常会話に頻出する抽象名詞でもある一方で、古代の人々にとってはつねにいきいきとした具象的意味合いに充たされているものであり、それゆえに時に人間にとって危険なダイモン(神霊)でもありました。
エロスは彼の時にあわせて来る
誕生の地なる美しいキュプロスの島を去って。
エロスは来たる、地上の人間のために
種子をまき散らしながら。
例えば紀元前6世紀に歌われたこの詩においても、エロスは気まぐれな恋の兆しというよりは、生きとし生けるものに訪れる「宿命的な生の衝動」を表していました。
その意味で今週のやぎ座もまた、たとえわが身を投げ出してでもエロスの求めるところを追求していけるかどうかが問われていくことになるかも知れません。
やぎ座の今週のキーワード
エロスは来たる