やぎ座
めんどうだけどこれでいく
「ぎんなんぎん」
今週のやぎ座は、「切株やあるくぎんなんぎんのよる」(加藤郁乎)という句のごとし。あるいは、「たかが」と「されど」のはざまに立っていくような星回り。
昭和三十四年、作者が三十歳のときに出した第一句集『球体感覚』に収録された一句。「あるくぎんなんぎんのよる」を「歩く銀杏銀の夜」と読めば、銀色に照る月光のもとで銀杏の実が歩きだす幻想的な光景が浮かび上がってきて、どっしりとした「切株」の存在感とあいまって、おとぎばなしのワンシーンのような遊びのある句となります。
しかし、あえて平仮名にしてあることを鑑みて、松山俊太郎が指摘しているように別の読み方をすれば「或る苦吟難吟の夜」となり、句作の舞台裏で苦しみ抜いている作者の姿が現れてくる。
いずれの解釈が正しいかという愚問は脇に置くとして、声に出して読んでみると「ぎんなんぎん」というはねるようなリズムがなんとも心地よく、それ自体が苦しみと楽しみが分かちがたく結びついた作者の言葉にならない心境を物語っているかのよう。
作者にとって俳句はしょせん言葉を尽くした遊びであり、同時に、命をかけた遊びでもあったのかも知れません。
13日に自分自身の星座であるやぎ座で上弦の月を迎えていく今週のあなたもまた、そうした苦しみと楽しみの両極のはざまにこそ自分の居場所や立ち位置を改めて見い出していきたいところです。
こねくり回す時間=生みの母
例えば、80年代に映画版『ナウシカ』がその後のエコロジー・ムーブメントの旗手となっていったことはよく知られていますが、『ナウシカ』の世界は最初からある種の思想として宮崎駿の中で構想されていたのではなく、それらに先行して、まず腐海の森の描いた一枚の絵として突如現れたことはあまり知られていません。
『ナウシカ』は、コミックの連載をすると言ってしまった後に形になっていったんです。その頃はまだ、荒涼とした砂漠の中にある小国みたいなイメージしかもっていなかったんですが、色々こねくり回したり、いじくり回したりしているうちに突然、森が出てきちゃうんですね。突然です、本当に。初めは砂漠を描いていたのが、砂漠より森のほうが自分で気持ちがピッタリすることがわかったんです。『風の谷のナウシカ―宮崎駿水彩画集』
実際、漫画版『ナウシカ』の第一巻をめくって最初に目に飛び込んでくるコマには、主人公と同質のタッチで描かれた鬱蒼と茂る腐海の菌類たちが描かれていました。同様に、今週のやぎ座もまた、どこか面倒だなあと思いつつも、なんだかピッタリきてしまうという自分なりの感覚を大切にしてみるといいでしょう。
やぎ座の今週のキーワード
「或る苦吟難吟の夜」